素直になれなくて

鈍感

大地はニヤニヤしながら私の周りを回りながら「ほら、好きなのか?お前は?ほらほら?どうなんだよ、ほら?言ってみろよ?」と煽ってる。


うるさいわね遅刻魔ダイチ。


仕返ししてやる。


ポケットの中に使えるものは……?


あった。よし。


「大地……」


私は後ろを向いて呟く。


「なんだ?」 


大地は動きを止めて不思議そうな声をあげた。


よしよし食いついた。


私はゆっくり振り向いて、


「大地ひどい……。どうして、そんなひどい嘘つくの?私のことが嫌いなの?」


大地はギョッとして私の涙をまじまじと見つめる。


よしよし。引っかかってる!


実はコレ、涙じゃなくて目薬だもんねー!ベー!


涙(仮)を見た大地から発せられた第一声は…。


「……とりあえず涙拭えよ」


え?それだけ?


反省してないやんこの遅刻魔ダイチめ!!!謝りなさい!この【ピーーーーーーー】め!


よし、次。


「そ、それだけぇ……?ひどいよぉ……!うわあああああん……!」


「……は?」


は、じゃないわよ。こっちのセリフだわ。


周りの人に見られて超恥ずかしいんですけど。


今さら嘘って言ったら私の命はどうなるか……。ひええ。


「ひっく……。ひっく……」


木に隠れながらすすり泣く(フリをする)私に、大地は「オイオイマジかよ……」と言いたげに額に手を当てて私の方へ近寄ってくる。


その途端、


ぱしっ。


「オイ、だ、大丈夫か……?」


大地が、照れくさそうにそっぽを向きながら私の手を手を掴む。


えっ……⁈


突然そんな大地の反応に私は顔が赤くなり、そっぽを向く。



謎の状況になった私たちを、道行く人たちがクスクス笑いながら通り過ぎていく。


私たちは、


((恥ずかしいっ……!))


と思いながら暫くの間そうしていた。


……私は、大地に「あれは涙じゃなくて目薬」と言えないまま。
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