病んだ心をつまびいて



「まぁ、そのあとすぐに僕は引っ越してしまったからね。あれからもう10年以上も経ってる。忘れてしまうのも無理ないよ」



アズマさんは寂しげに笑った。

しかしすぐに、こちらに流された瞳に艶が乗る。





「お別れのとき、茜ちゃんは言ってくれたんだ。
"大きくなったらアズくんと結婚する"って」




毛布から取り出される私の左手。

身をかがめたアズマさんは、その薬指にくちづける。


まぶたを下ろしては、まるでたしかめるような長いキスだった。




「気持ち悪いよね……幼い頃の約束を、バカ正直に信じてきたなんて」

「……」

「けどね、たった一枚の写真で、なんでも頑張れるヒーローみたいな気分になれたんだ」

「……」

「そんな僕のお姫様は、もうすぐ18歳」




スプリングの軋み。
手をついたアズマさんが、私の頬にくちびるを寄せる。





「迎えにきたよ、茜ちゃん」





私だけを欲する、ふたつの瞳。

とろけるような声に体温が急激に上がった。
ただでさえ熱で頭がぼやけてるのに、それをさらに煮詰められていく。



「アズマさ……だめ……」

「だめ?なにがだめなの?こんなに大好きなのに……受け入れてもらえない?」



ちゅ、ちゅ、と
耳やおでこにキスを落としてくるのがくすぐったい。
その肩を押せば、遊ぶように手首をとられてしまう。




「私、アズマさんには釣り合わない……」

「なぜそうおもうの?僕にはきみしかいないのに」

「ぁっ、ん……」




首すじを強く吸われる。
アズマさんのわずかな苛立ちが伝わってきた。




< 273 / 283 >

この作品をシェア

pagetop