恋愛下手の恋模様

この階にある休憩スペースは、窓が大きく切られている。

晴れた日には、遠くに見えるなだらかな山容と青空のコラボレーションがとても美しくて、晴れ晴れとした気持ちになれる。

しかし今は夕暮れ時。茜色から群青色へと変わりゆくグラデーションが、空を染めている。

私はベンチに腰かけて、その色の移ろいをぼんやりと眺めていた。

ついさっきまで、ここで遼子さんと話しをしていたのだが、思い出すとため息が口をついて出る。

話題はもちろん、彼女の退職のことだった。

本当はランチ後会社に戻ってすぐに、そのことを確かめたかった。しかし、電話が立て続けにかかってきて、そんな暇がなかった。だから私は仕事が終わるまで我慢をし、帰り際に時間を作ってもらえるよう、彼女にお願いしたのだった。

彼女の退職の話は、決定事項だった。その理由が、結婚で遠方に引っ越しというものだったから、納得せざるを得なかった。宍戸経由で知ることになったのは、ただタイミングが悪かっただけ。公にする前に、私には直接伝えるつもりでいたのだと、彼女は言った。

直接言葉を交わすことで、私は彼女の退職をなんとか受け入れることができた。本当はやめないでほしいが、仕方のないことなのだと諦めた。ただ、彼女がいなくなってしまうという事実に、私の心には大きな穴が開いたようだった。遼子さんは本当に大好きな先輩で、心から頼れる存在だったから。

「――頭では分かっているんだけどね」

私はぽつりとつぶやいた。それがきっかけになって、遼子さんの前では持ちこたえていたものが、目尻からふっとあふれ出た。

「しっかりしないと」

自分を鼓舞するように、私は両手で軽く頬を叩く。

その時、ふと窓に写り込んだ人影に気がついて、私は手を下ろした。

今の見られたかしら……。

ばつが悪いような気持ちになって、そそくさとその場を立ち去ろうとした。しかし、目の端に見えたのが宍戸であることに気づき、私は立ち止まった。

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