恋愛下手の恋模様
1.初対面の日

歓迎会

就職をきっかけに、私はこの春から念願の1人暮らしを始めた。

会社は自宅からでもぎりぎり車で通勤できる距離にあったが、「一人暮らし」を経験してみたいと思い、両親を説得したのだ。

配属先は営業課で、私の仕事は事務。

私のような新入社員は研修を受けてはいたが、2、3ヶ月の間だけ、一人ひとりに先輩がついてくれることになっていた。私の指導役は、白川さんと言った。

さていよいよ対面となった時、私はかなり身構えていた。なぜなら、先輩にいじめられたという内容のエピソードを聞くことが多かったからだ。私についてくれるという先輩も、そういうタイプなのだろうと思っていた。

ところが、彼女は穏やかな笑顔で手を差し出したのだ。

「初めまして、白川遼子です。よろしくね」

私はおずおずと彼女の手を握り返した。

「……はじめまして、岡野みなみです。どうぞよろしくお願いいたします」

「岡野さん、ね。下の名前、みなみさんっていうのね。素敵ね」

そう言ってふふふと笑う彼女こそ、とても素敵で可愛らしい人だった。

私の不安は、あっという間になくなった。気づいた時には、彼女のことを「遼子さん」と下の名前で呼ぶようになっていた。そんなにも早く私が彼女に打ち解けたのは、私が一人っ子で姉という存在に憧れを抱いていたからでもあったと思う。

私は優しい先輩のもとで、奮闘する毎日を送っていた。物覚えはいい方だったと思う。入社してから間もなくひと月になる頃には、自力でこなせる業務の範囲がかなり増えていた。
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