恋愛下手の恋模様

私は何度も瞬きをしながら、補佐の顔を見つめた。

「あの、どうしてでしょうか……?」

補佐は苦笑した。

「さっきの映画の話、予定を確認したら連絡しようかと」

「でも……。本当はご迷惑なのでは?さっきのご様子から、てっきりそうなのかと……」

「やっぱりね」

補佐の苦笑が更に広がった。

「急に様子が変わったから、絶対何か誤解していると思ったんだ。話を続けようとしたんだけど……」

「え……」

断られた訳ではないらしいことを、まだ混乱した頭で私は理解した。気持ちが次第に落ち着くにつれ、冷静さが戻ってくる。

私は補佐の話を最後まで聞かずに、誘いを断られたと思い込んでいたようだった。それに気づかされた途端、顔から火が出るかと思うほど恥ずかしくてたまらなくなった。

「あの、本当に……?」

熱くなった頬を手で隠すように覆いながら、私はおずおずと訊ねた。

補佐は大きく頷くと、笑いをこらえるような顔つきで、はっきりとした口調で言った。

「本当です。ーー番号を聞いても?」

「は、はい」

「それじゃあ、教えて?」

これは夢ではないのかと信じられない思いで、私は自分の番号を口にした。

補佐は携帯の画面を、トンっと軽くタップする。

「これが俺の番号」

その直後、私の携帯が鳴った。急いでバッグの中から取り出して見ると、画面に未登録の番号が表示されていた。

「ありがとう、ございます」

どきどきどきどき鼓動が騒がしい。

「予定が分かったら連絡入れるから、せめてそれまでは消さないでおいて」

補佐はそう言うと悪戯っぽく笑い、スーツのポケットに携帯を収めた。

「それじゃあ、先に失礼するよ。できるだけ早く連絡するから」

「はい、ありがとうございます。あの、お待ちしています……」

「うん」

補佐は笑みを浮かべて立ち去ろうとしたが、何を思い出したのかふと真顔になって私を見た。

「宍戸ってさ……」

「はい?」

「いや、何でもない」

補佐は言葉を飲み込むと、怪訝な顔の私に笑顔を向けた。

「それじゃ、また」

「はい、お疲れ様です」

頭の中は飽和寸前だった。短時間のうちに色々なことがありすぎた。疲労を感じている一方で、思いもよらなかった補佐との連絡先交換に、気分は高揚していた。そして、自分勝手な想像を巡らせてしまいそうになる。

補佐が私に好意を持ってくれているとしたら。いつかそれ以上の気持ちに発展してくれたら嬉しいのに、と。
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