恋愛下手の恋模様
「私は……補佐が好きです」
緊張で声が震える。
「補佐の過去のことは、正直言ってやっぱり気になリます。でも、補佐を好きな気持ちは変わりません。できることなら、補佐の隣にいたいと思っています――」
ようやく、言えた。
ちゃんと伝わっただろうかという不安はある。けれどそれ以上に、言い切ったと安心する気持ちの方が大きかった。緊張の糸が解けたせいか涙がじわりと溢れそうになり、目の前がぼんやりし始めた。それをごまかすために何度か瞬きしたら、涙になって一滴落ちた。
こんな場面で涙を見せるのは卑怯だ――。
私は慌てて頬を拭く。
補佐がおもむろに口を開いた。
「――宍戸といる時の君は、本当に楽しそうに笑っているんだよ」
「え……?」
「自然に素直な気持ちで笑っていられる人の傍にいた方が、幸せなんじゃないのかな」
「それは、どういう意味です……?」
補佐はついと私から目を逸らした。
「宍戸ならきっと、君のことを大切にしてくれると思うよ」
「どうして今ここに、宍戸の名前が出てくるんですか……?」
私は低く震える声で聞き返した。組んでいた手に力がこもる。
今話しているのは、私と補佐のことだ。それなのに、宍戸を勧めるような言い方をするなんて――。
また泣きたくなるのをこらえて、私は自分の手を見つめた。
「補佐が何を仰っしゃりたいのか分かりません……。私に他の人を勧めるくらいだったら、最初からきっぱりと振っていただいた方が良かった。まるで私のことを想ってでもいるかのような、あんな思わせぶりなことを言わないでほしかった。もしかしたら、って期待してしまうじゃないですか」
「ごめん……」
補佐がかすれた声で言う。
「本当にすまない。君の気持ちにすぐに答えを出せないくせに、わざわざこんなことを言ったりしてずるいとは思ってる。でも、思わせぶりでも何でもない。……あぁ、でもこんな言い方は、君の気持ちをつなぎ止めておこうとしているようで、確かに卑怯だな」
補佐は口をつぐみ、目を伏せた。
私たちがいるこの空間にだけ、しんと重苦しい空気が漂う。
「ーー補佐は、どうなさりたいんですか?」
私は静かに訊ねた。
「仰って下さったら、私、その通りにします。今後はもうこんな風に会ったりしないというのなら、もちろん私からお誘いするようなことはしませんし、教えていただいた連絡先も消します。でも、もしそうでないのなら……」
私は言葉を切った。
その続きを待つように、補佐が息を飲む気配が伝わってきた。
「少しだけ、私とのこの先のことを考えてみてはいただけませんか」
自分からこんなことを言うのは、私にとってはひどく勇気のいることだった。けれど、言わないで後悔するなら、言って後悔する方がまだいい――そう思った。
「俺は……」
私は補佐の答えを待った。
もしも彼が前者を選んだとしたらーー私は当然傷つくだろう。だけど、後悔はしない。諦める決心をつけることで、きっと前に進めるはずだ。
ところが補佐は言った。
「少し時間をくれないか……」