恋愛下手の恋模様

築山さんは私を見て微笑んだ。

「匠にはさ、自分で言えよ、って何度も言ったんだよ。でもあいつ、自分から話すとそこに嫌な感情が入ってしまうから、とか言ってさ。君が何を聞きたがっているのかを、あいつはちゃんと分かっていたんだろうね。ま、あのことだろうな、って俺にも予想はついてるけど」

築山さんは、今度はにっこりと笑った。

「匠は、よほど君に嫌われたくないんだろうな」

「……」

私はどういう反応をしたらいいか困って、目を泳がせた。

「たぶん君はさっき、ここに来たことを匠には知られたくないと思ったんだよね。だけどそういうことだから、心配しなくていい。匠がそれでいいって、その方がいいって望んだことでもあるから。そんなわけで俺は初めから、君にあいつのことを話してあげるつもりでいたよ。ただしその前に、ひとつだけ聞いておきたいんだけど、いい?」

私は緊張した。

「みなみちゃんはさ、匠のこと、本当に好きなの?」

築山さんにさらりと問われて、私は狼狽した。

私の返答を待っている彼の目は真剣だった。

私にそう訊ねたのはきっと、補佐ができるだけ傷つかないようにと思ってのことなのだろう。この人にとっても、補佐は大事な人なのだ。

そう思った私は築山さんを真っすぐに見返し、そして答えた。

「――好きです、とても。ずっと隣にいたい。だからそのためにも、私は山中補佐の昔のことを知って、それを自分の中で消化できたらいいなって思ったんです。もし補佐の心にまだ傷みたいなものが残っているのなら、そうすることで、それを少しは和らげてあげることができるんじゃないかって……。おこがましいですが」

私は顔を伏せた。

今の答えで合格点をもらえるだろうか――。

不安に思いながらそっと目を上げると、にやにや笑いが入り混じったような顔の築山さんと目が合った。

「意地悪なこと言ってごめんね。わざわざ聞かなくても、この前の様子で分かっていたんだけどさ」

微笑ましいものでも見るような築山さんの視線を浴びて、頬が火照り出す。冷たいものが欲しくて、私はグラスに口をつけた。ひんやりした感触が喉を通って気持ちがいい。

私の様子が落ち着くのを待って、築山さんは口を開いた。

「で、聞きたいのは、やっぱり」

私は背筋を伸ばして座り直した。

「はい、補佐が離婚された理由を」

私は眉根を寄せた。

「あの日ここに来る前に、偶然会った女の人がいたんです」

「あぁ、それで……」

築山さんはふうっとため息をついた。

「あの日の匠、ちょっと荒れ気味だったんだよ」

「荒れ気味?あの山中補佐が、ですか?」

「そう、あの匠が」

それから、忌々しいとでもいうように顔をしかめた。

「正直言うと、匠の離婚に関しては、俺も冷静に話せる自信はあまりないんだけどね」 

「申し訳、ありません……」

言いたくないことを教えてくれと言っている申し訳なさに、私はうつむいた。

「みなみちゃんが謝ることはないよ。いずれにしても、避けては通れない話なんだろうしさ。いい加減そろそろあいつも、あの時のことをきれいさっぱり、吹っ切ることができればいいんだけどね。余計なお世話ってやつなのかもしれないけど、匠には幸せになってもらいたいと思ってるんだ」

そう言って築山さんは微笑むと、宙を見ながら話し出した。
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