繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
黄昏の光がなければ、夜は明けない。そう言ったのは、康代だったか。
穏やかな灯りがあれば、朝が来るのも怖くない。そう言っていたのかもしれないと、店内に並ぶビンテージランプを眺めながら、奈江は思う。
ずっと一人でさみしくないの? と、いつだったか、奈江は康代に聞いたことがある。若い頃はそう思うこともあったわね、と彼女は笑ったが、そんなときに、ランプに出会ったのだろうか。
奈江だって、さみしい日がまったくないわけではない。時々、誰かに会いたくなるときはある。
人恋しい。そんなときは、ランプがあれば、さみしくないだろうか。康代のように生きるのも悪くはない。むしろ、そんな人生を送りたい。そう思う奈江は、店内の端に置かれた、すずらんの形をしたランプの前へと移動する。以前、秋也に見せてもらった無名作家のビンテージランプだ。
「やっぱり、それが気になる?」
奈江がそのランプに関心を向けるのを待っていたみたいに、秋也が声をかけてくる。
「物悲しい感じがするのに凛としてて、なのに可愛いですよね」
「早坂さんみたいだよね」
「私?」
「ひとめぼれだったんだ」
秋也はそうつぶやくと、すずらんのランプを手に取る。
「これを見つけたときも、屋敷の片隅に置かれてたよ。さみしそうにしてるのに、一人でいるのが好きみたいに凛としてた」
「見つけたときって……。猪川さんが買い付けたランプなんですか?」
「そう。唯一、俺が買い付けたランプ。吉沢さんと懇意にしてたビンテージランプのコレクターが亡くなって、ご家族がいくつか譲ってくれるっていうから、遥希の代わりに俺がフランスまで行ってきたんだ」
「そうだったんですね。猪川さんが……」