Runaway Love
茉奈、と、呼ばれてしまった以上、行かない訳にはいかない。
あたしは、あきらめ半分に、正門へ向かった。
救いなのは、残業していたおかげで、ここにいる人間が早川しかいない事。
――まあ、それはそれで、別の意味でマズい気がするんだけれど。
半ば、ぼう然としている早川の横を通り過ぎ、あたしは岡くんの元へと向かう。
「ちょっと、岡くん!何で……」
「え、だって、終業時間目がけてメッセージ送ったけど返信無いから、残業かなって。だったら、迎えに行かないとって思ったんで」
ニコニコと笑いながら言う岡くんに、後ろめたい事など無いのだろう。
あたしは、あきれ半分に言い返した。
「あのさ、あたし、アパートすぐ近くなの。このくらいの時間、平気で一人で帰ってるから」
「でも、オレが心配なんで」
「そんな心配、いらないわよ」
大体、このコ、仕事してんのかしら。
そんな疑問が顔に出ていたのか、岡くんは笑ったまま続けた。
「あ、オレ、今N大学の院生なんですよ。で、今日は終わって、これからじいちゃんの店でバイトだったんで」
「――え」
奈津美は、そんな情報まではくれなかった。
あたしは目を丸くしたが、すぐに立て直す。
――だからといって、こんなストーカーのようなマネをされるのはごめんだ。
「おい、杉崎。――……コイツ、何なんだよ」
少々イラついたように、早川が割って入ってきたので、あたしが説明しようとすると、岡くんが先に口を開いた。
「初めまして!岡将太って言います。奈津美――茉奈さんの、妹さんの旦那の親友です」
「へえ……。で、杉崎に何の用なワケ?」
「え?だから、心配だったから迎えに来ただけですよ」
「本人は、いらぬ心配だって言ってるがな」
すると、岡くんは、あたしをチラリと見やり、早川に向き直った。
「でも、一昨日、無理させちゃったから――身体、大丈夫かなって、心配だったんで」
「――え?」
「おっ……岡くん!!」
あたしが、慌てて、どうにかごまかそうとすると、岡くんは、遮るようにあたしの右手を取った。
「――大丈夫?ずっと、歩くの辛かったんじゃないですか?」
「……っ……!!」
そう言って、あたしをのぞき込み、ニコリと笑う――けれど、その笑みは、何か含みがあるようで、言葉を失う。
「す……杉崎!」
すると、早川が、あたしの左腕をつかんで呼び止めた。
「な、何よ」
珍しく、その真面目な表情に、戸惑ってしまう。
「――お前、そいつと、どういう関係なんだよ」
「どういうって……さっき言ったじゃない。妹の旦那の――」
けれど、言い終わらないうちに、岡くんが早川の手を振り切って、あたしを抱き寄せた。
「――だけじゃない、って、わかりますよね?」
「――っ……のっ……!」
イラついた早川の声が耳に届く。
けれど――イライラのレベルは、あたしの方が上だ。
「いい加減にしなさい!」
あたしは、岡くんの腕を無理矢理振りほどき逃れると、二人を振り返った。
「何をけん制し合ってるのか知らないけど!あたしを、これ以上巻き込まないで!!」
そう言って、あたしは、地味に痛む身体を押して、ダッシュでその場を後にしたのだった。
あたしは、あきらめ半分に、正門へ向かった。
救いなのは、残業していたおかげで、ここにいる人間が早川しかいない事。
――まあ、それはそれで、別の意味でマズい気がするんだけれど。
半ば、ぼう然としている早川の横を通り過ぎ、あたしは岡くんの元へと向かう。
「ちょっと、岡くん!何で……」
「え、だって、終業時間目がけてメッセージ送ったけど返信無いから、残業かなって。だったら、迎えに行かないとって思ったんで」
ニコニコと笑いながら言う岡くんに、後ろめたい事など無いのだろう。
あたしは、あきれ半分に言い返した。
「あのさ、あたし、アパートすぐ近くなの。このくらいの時間、平気で一人で帰ってるから」
「でも、オレが心配なんで」
「そんな心配、いらないわよ」
大体、このコ、仕事してんのかしら。
そんな疑問が顔に出ていたのか、岡くんは笑ったまま続けた。
「あ、オレ、今N大学の院生なんですよ。で、今日は終わって、これからじいちゃんの店でバイトだったんで」
「――え」
奈津美は、そんな情報まではくれなかった。
あたしは目を丸くしたが、すぐに立て直す。
――だからといって、こんなストーカーのようなマネをされるのはごめんだ。
「おい、杉崎。――……コイツ、何なんだよ」
少々イラついたように、早川が割って入ってきたので、あたしが説明しようとすると、岡くんが先に口を開いた。
「初めまして!岡将太って言います。奈津美――茉奈さんの、妹さんの旦那の親友です」
「へえ……。で、杉崎に何の用なワケ?」
「え?だから、心配だったから迎えに来ただけですよ」
「本人は、いらぬ心配だって言ってるがな」
すると、岡くんは、あたしをチラリと見やり、早川に向き直った。
「でも、一昨日、無理させちゃったから――身体、大丈夫かなって、心配だったんで」
「――え?」
「おっ……岡くん!!」
あたしが、慌てて、どうにかごまかそうとすると、岡くんは、遮るようにあたしの右手を取った。
「――大丈夫?ずっと、歩くの辛かったんじゃないですか?」
「……っ……!!」
そう言って、あたしをのぞき込み、ニコリと笑う――けれど、その笑みは、何か含みがあるようで、言葉を失う。
「す……杉崎!」
すると、早川が、あたしの左腕をつかんで呼び止めた。
「な、何よ」
珍しく、その真面目な表情に、戸惑ってしまう。
「――お前、そいつと、どういう関係なんだよ」
「どういうって……さっき言ったじゃない。妹の旦那の――」
けれど、言い終わらないうちに、岡くんが早川の手を振り切って、あたしを抱き寄せた。
「――だけじゃない、って、わかりますよね?」
「――っ……のっ……!」
イラついた早川の声が耳に届く。
けれど――イライラのレベルは、あたしの方が上だ。
「いい加減にしなさい!」
あたしは、岡くんの腕を無理矢理振りほどき逃れると、二人を振り返った。
「何をけん制し合ってるのか知らないけど!あたしを、これ以上巻き込まないで!!」
そう言って、あたしは、地味に痛む身体を押して、ダッシュでその場を後にしたのだった。