Runaway Love
 意味を考える間も無く、抱き寄せられ、唇が重ねられる。
 息をつく暇さえ与えられず、あたしは、彼にしがみついた。
 すると、その手を彼の首に回され、完全に抱き合ってキスをしている状態になってしまう。
 ゆっくりと、うかがうように絡められた舌に応えると、野口くんは前とは違い、徐々に激しく返してきた。

「――……はぁっ……っ……ん……」

 ようやく、呼吸ができた瞬間、自分から出てきた声に、自分で驚く。
 けれど、彼は、離れないとばかりに、再び舌をねじ込んできた。

 ――ああ、何か、ふわふわしてきた……。

 以前、岡くんにされた時のように、気絶はしたくない。
 野口くんの首に回した腕に力を込めると、腰に回された彼の手に力が入った。
 ようやく、唇が離され、うっすらと目を開けると、彼のキレイな顔は色をまとっていて、あたしの身体の奥がズクリとうずいた。

 ――……ヤバイ。……これじゃあ、痴女みたいじゃない。

「……か……駆、くん……」
「――あ、あの……すみません……」
「え?」
「……ちょっと……時間、もらえますか……」
 視線をそらしながら言う野口くんは、首まで真っ赤だ。
「……そ、の。……身体、反応してしまって……」
「え、あ――あ・」
 言いたい事が理解できた瞬間、あたしは急いで彼から離れた。
 視線をそらし、リビングへ出る。
「ごっ、ごめんなさい」
「いえ――オレが調子に乗ってしまったから……」
 野口くんのトーンが下がってしまい、あたしは慌てて言った。
「そ、そんな事無いからっ……。その、ごめんなさい。……あたし……も、その……」
「――え」
 言ってて気まずくなってしまい、キッチンに向かおうとすると、腕が掴まれた。
「駆くん?」
「――……茉奈さん、も、感じたんですか」
「え、ち、違っ……」
 否定しようとしたが、野口くんの熱を持った視線に、抗えない。

「――……わ、ない。……き、気持ち良かった……」

 わざわざ言う事なのかと、自分で突っ込みたくなったが。
 たぶん、顔は熱いから、相当真っ赤だろう。

「――……よ、良かった……」

 野口くんは、心底ホッとしたように言ったので、あたしは彼を見上げた。

「……え?」

「……オレ……経験無いんで……何が正解なのか、わからなくて……」

 ――あたしも、同じだよ。

 そう言いたかったけれど、現実は違う。
 彼の他にも二人とキスはしたし――岡くんとは、記憶には無いが、最後までしているのだ。
 言葉にするよりも、と、思い、あたしは野口くんに抱き着いた。
「――茉奈さん?」
「……そんなのに、正解なんて、無いわよ」
「……ハイ……」
 彼は、あたしをギュっと抱きしめ、髪に顔をうずめた。

 ――どうしてか、それが、無性に愛おしく感じた。
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