Runaway Love
 野口くんは、駐車場に入ると、奥のスペースに車を停めた。
 そして、サイドブレーキを引くと、あたしを見る。

「……茉奈さん?」

 あたしは、呼びかけには応えずに、車を先に降りる。
 歩き出すあたしを、野口くんは慌てて追いかけてきた。

 ――今は、何を言っても、きっと口先だけに思われてしまう。

 なら、もう、行動で示すしかない。

 じゃなきゃ、彼は、このまま不安を抱えて閉じこもってしまいそうで。
 ――それだけは、避けなければ。

 コミュ障改善に協力するって言ったあたし自身が、傷つけて、悪化させてどうするの。

 あたしは、部屋の鍵を開け、中に入る。

「――お、お邪魔、します……」

 少しだけぎこちなく、後ろから来た野口くんは、そう言って中に入った。
 あたしは、すぐに鍵をかける。
 その音だけが、部屋に響き渡った。
「――適当に座ってて。……何か、飲む?」
「え、あ、いえ……だ、大丈夫、です」
 持っていたリュックを置くと、彼はテーブルの前に正座した。
 肩が上がっているので、かなり緊張しているのかもしれない。
 あたしは、バッグを置き、隣に座った。

「――……あのね、別に、平気な訳じゃないわよ」

「え」

 野口くんは、あたしを見やる。
「正直、仕事でいっぱいいっぱいだけど、駆くんを、ないがしろにしているつもりはないし――……」
「わ、わかってます。……ただ、オレが勝手に……」

「でも、そう思わせたなら、責任、取らせて」

「――……茉奈さん?」

 あたしは、少しだけ震える両手を、野口くんに伸ばす。
 そして、彼に抱き着き、腕に力を込める。
「……茉奈さん……」
「――……あたしの気持ちは、信用できない?」
「……ち、違いますっ……」
 首を振る野口くんは、あたしを抱きしめ返した。

「――オレの方が、重いだけなんです。……いっそ、あなたを、閉じ込めてしまえれば、どんなに良いか――……」

 そう言って、口づける彼に、あたしは自然に笑みが浮かぶ。
 ――何て、甘い縛り方するの。
「……本当に、閉じ込めちゃうの?」
 すると、彼は苦笑いで返した。
「閉じ込められてくれますか?」
「あたしが、大人しくしてると思う?」
「――まさか」
 少しだけ柔らかくなった雰囲気に、ひとまず安心した。
 至近距離のキレイな顔に、あたしは、そっと触れる。
「でも、うれしいわよ?」
 それは、本心だ。
 ベクトルはどうであれ、こんなに想ってもらえるのは、素直にうれしいと思えた。

 ――岡くんの想いは、戸惑いしか無かったのに。

 野口くんは、再び口づけると、次第に深く、激しく変わっていく。
「――……っん、ふっ……」
 息をするたびに出てくる声には、やっぱり羞恥心が伴う。
 けれど、うっすらと目を開け、視界に入ってくる彼の表情を見れば、それは恥ずかしい事ではないのだと、思い直す。
 ――……ちゃんと、気持ち良いのだと、わかってもらえるから。
 徐々に、彼の手が動き出し、ぎこちなく体中に触れていく。
 そのもどかしさに耐えながらも、唇は離さない。
 そして、そっと、胸に手が触れた瞬間、ビクリ、と、反応してしまう。
「――んんっ……」
 唇を離すと、野口くんは、あたしを抱きしめ耳元で囁いた。

「――……良いん、ですか……?」

 その刺激に耐えながら、うなづく瞬間、固まった。


 ――……うそ。


「……茉奈さん……?」
「ごっ……ごめんなさいっ!」
「え」
 ほとんど反射で離れてしまう。
 だが、拒否した理由がわからず、戸惑う野口くんに、あたしはもう一度抱き着いた。
 こんなの、真正面から、顔を見て言えない。

「――……き、来ちゃった……みたい……」

「――……え?」

 キョトンとする彼に、あたしは続けた。

「……え、っと……つ、月のモノというか……」

「え?」

「――……せ、生……理……」

 できる限り小声に、でも、どうにか聞き取れるくらいの大きさで、あたしは言ったのだった。
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