Runaway Love

46

 明日から、本社はお盆休み。あたしは、カレンダー通りなので休みで、一日行って、また休みだ。
 そんな状況で、また、不備が見つかり、半泣きになる。
 柴田さんのメモを漁り、工場長に聞いてみたが管轄外というか、事務系は柴田さんに頼り切りで、一切覚えていないそうで、あたしは最終手段に出た。

『はい。オオムラ食品工業、総務部、浦川でございます』

 ――何かあったら、本社の総務さんに電話かけちゃうし。

 その、柴田さんの言葉を思い出し、あたしは、不本意ながら本社総務部の直通電話の番号を押した。
 出たのは、あたしよりも五年先輩の総務部主任だ。
「お疲れ様です。南工場、杉崎です。少々、お伺いしてもよろしいでしょうか」
『――どうぞ』
 ほんの少し、頑なになった口調に、苦笑いだ。
 この人は、確か、早川がお気に入りだったはず。
「工場事務の方で、不明な点がいくつかありまして、処理方法をお伺いしたいのですが」
『……では、担当に代わりますので』
 すぐに保留音が響く受話器を、思わずにらんでしまった。

 ――アンタ、全部わかるでしょうが!

 けれど、それを口に出す訳にもいかず。
 結局、代わったのは、あたしよりも二年下の人で、まごついたあげく、たらい回しにされて、ようやく終わったのは十分経過した頃だった。
 あたしは、パソコンのキーボードをたたきながら、ため息をつく。

 ――私情を挟むな、私情を!!

 苦りながらも、どうにか処理を終え、気がつけば十二時前。
 一体、何をしていたのかという忙しさに、食欲も失せる。
 ――……今日は、ご飯、やめようか。
 あたしは、お弁当の中身を思い浮かべ、ため息をついた。
 傷む程ではないが、夕飯には回せない煮物やサラダだ。
 保冷材を入れていても、心配なもの。
 あきらめて立ち上がると、入れ替わりに入って来た工場長を見上げる。
「お昼に行ってきますので」
「おう、行って来い、行って来い。電話番くらい、何とかなるからな」
「ありがとうございます」
 あたしは、頭を下げると、ロッカーからお弁当を持って、食堂に入る。
 いまだに部外者感が抜けきれないが、工場の人達は違ったらしい。
「あ、杉崎さーん、お疲れ様です-!」
 今日は、若いコ達の集団に入れてもらう事になった。
 目まぐるしく移っていく話題に、苦笑いで返すしかない。
 けれど、世代間の壁は、あまり感じないようで、本社の事や野口くんの事などもチラリと話題に上るが、一瞬で次の話題だ。
 あたしは、気がつくとお弁当を完食していて、自分でも驚く。
 ――あれだけ、食欲が無いと思っていたのに。
 環境が与える影響は、大きいのだと実感した。

 今日は、休み前ともあって、昨日と同じく八時前に終了だった。
 野口くんは、お盆休み前、最後。あたしよりも遅くなるらしい。
 メッセージが来たのは、お昼休みの時間だった。

 ――待たせたくないので、遅くなるようなら、タクシー使ってくださいよ。

 その言葉に、口元を上げるが、あたしはバス停まで歩き出した。

 ――……ごめんなさい。

 心配してくれるのはありがたいけれど――過保護は嫌。
 それに、ずっと、自分が守らなきゃいけない立場だったから……守られるのに、慣れていない。

 あたしは、時間ピッタリにやって来たバスに乗り込むと、ぼうっと窓の外を見やる。
 ――明日、どうしよう。
 野口くんは、お盆休み、と言ってたけど、あたしの休みは実質三日間だけだ。
 それは知っているはずだから、明日は何も無いはず……。
 まずは、掃除をして、片付けと……実家に顔を出すのは、十三日でいいだろう。

 ……父さんのお墓参りもあるし。

 あたしは、ほう、と、息を吐くと、無心で外を流れる光の波を見つめていた。
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