Runaway Love
 ようやく休みという事もあってか、若干寝坊してしまったが、どうにか午前中に、ひと通りの片付けと掃除は終了できた。
 左腕の痛みも、もう、ほとんど無い。

「――さて、と」

 一息つくと、あたしは、頭を悩ませ始めた。
 先日、野口くんに言われたのは、本当にデートの事なんだろうか。
 ハッキリした事を言ってないので、自信が無い。

 すると、スマホが振動し、あたしはビクリと肩を跳ね上げた。
 慌てて手に取ると、その野口くんから。
 壊れそうな程に鳴り続ける心臓を押さえ、メッセージを確認する。

 ――十四、十五日、どうですか。

 端的なそれ。
 けれど、手を滑らせ、スマホはラグの上に落ちる。
 あたしは、急いでそれを拾い、返事をする。

 ――大丈夫。

 それだけ返すと、時間を尋ねられ、前日に実家に行く事を伝えると、迎えに行くと返された。
 一瞬戸惑うが、お願いする事にする。
 ここで断るのも、不自然なのかもしれないから。

 ――じゃあ、楽しみにしてます。

 ――あたしも。

 あたしは、それに返し、大きく息を吐いた。

 ……二日間だったわよね⁉

 即座に、メッセージを見返すと、やはり、二日間。
 ――という事は、やっぱり、”お泊り”って事よね……。
 あたしは、急いで、ショッピングモールへのバスの時刻表を確認したのだった。


 直通バスという訳でもないが、ショッピングモール行きのバスは、すぐ近くにバスの車庫があるので、始点、終点ルートになっている。
 あたしは、強い日差しに眉をひそめながら、バスから降り立つ。
 休日ともあって、乗車率は、まあまあ高く、若干人酔いしかけてしまった。
 だが、数歩歩いて深呼吸すると、改めて気合いを入れる。
 ――とにかく、下着は買わないと。
 もう、恥ずかしいとか言っている場合ではないのだ。
 後は、余裕があったら、服も買いたいし――仕事用の服も……。
 そう思ってはみたが、これから先、仕事を辞める事を考えると、無駄遣いはしたくない。
 でも、買うのが下着だけというのもアレなので、そこそこ着回せるものを買おうと決めた。

 回転ドアを通ると、ひんやりとした空気に迎えられ、思わず息を吐く。
 汗をかいていた分、少し寒気が走るが、あきらめる。
 さすがに、この時期、空調は整えておかないと、クレームものだろう。
 あたしは、エスカレーター脇にある案内図を見上げ、いつもの服屋を確認する。
 時々、テナントが撤退する場合もあるので、注意しなきゃ。
 まあ、それならそれで、似たような、別のところを探すのだけれど。
 そして、同じ階の奥にある下着屋を見つけると、ルートを考える。
 あからさまではないが、知っている人は知っている袋を持ち歩くのも恥ずかしいので、先に服を買おう。
 エスカレーターで二階に上がり、左側に回って三軒目。
 少し上の世代をターゲットにした、オフィス系中心の店は、休日もあって、中々の賑わいだ。
 そのくらいの方が、かえって気に留められないので、ありがたいけれど。
 店の入り口にあるハンガーにかかっているのは、秋物。
 少し落ち着いた色合いで、シンプルなスタイルは、着回せそうだ。
 あたしは、候補に入れると、そのまま中に入ってスカートやパンツを見て回る。
 次の職が何になるかはわからないけれど、ひとまず、デートの時に着なくてはならないのだ。
 できるだけ、キレイ目の――少しだけ、見栄えのするカットソーを選び、スカートは少し長め。
 足はできるだけ出したくない。
 店員さんに太鼓判を押されたセットを購入し、あたしは、いよいよ下着屋へ向かった。
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