Runaway Love

57

 週明け、いつもの時間に工場に到着すると、いつも以上にざわついている空気に、眉を寄せる。
 すれ違う人達の視線が、あたしに向けられているような気がするのは――気のせいだと思いたい。
 けれど、事務所に入ってすぐ、その理由がわかった気がした。

「おはようございます、工場長」

 先に席に着いて書類とにらめっこしていた工場長に挨拶をすると、あっさりと返される。

「おう、おはようさん。掲示板にメール貼っておいたが、本社でデカイ改編があるみたいでな」

「――え」

「大阪支店を支社に。本社から、結構な人数行くらしいぞ」

「……え?」

 あたしは、驚いて、そのまま事務所を出ると、すぐ脇の廊下の掲示板を見た。


 一、十月一日から、大阪支店を大阪支社に変更。

 一、監査部の追加。

 一、電算開発管理室の追加。


 ――以上……って……。

 あたしは、その内容に心当たりがありすぎた。

 大阪支店の事は、おそらく、早川の実績からだろう。
 手応えがあったようだし、元々、社長もそのつもりだったのだ。
 監査部は――たぶん、あたしのせい。
 そして、電算は……これまでの、社内のシステムの改変。
 部長が工場側の方を変えていたから、発展させる目的なのかもしれない。
 あたしは、社長の言葉を思い出す。
 ――……ここに、あたしの異動がからむのか。
 辞令は下りていないので、どういう形になるかはわからないけれど――たぶん、もう、ここにはいられない。
 そう思うと、さみしさがよぎった。


「杉崎さん、何か聞いてますー?」

 お昼休み、また、藤沢さんと一緒になり、今日は他の若い()も一緒だ。
「……いいえ、何も。あたしも、ビックリしてるわよ」
「ですよねー!でも、ウチにはあんまり関係ないんですよね?」
「まあ、本社の部署の追加だから……」
「やっぱり、結構な異動あるんですかねぇ」
 食べ終わったお弁当を片付けながら、あたしはうなづく。
「まあ、割と人員が必要みたいだしね」
「杉崎さんは、行かないですよね⁉」
 すると、正面から身を乗り出し、藤沢さんが尋ねる。
 あたしは、一瞬だけ、停止。
 だが、すぐに笑顔を作る。
「――今のところ、何も言われてないわよ」
「藤沢、杉崎さんに動かれたら、ウチの事務どうするのよ。他にできる人いないじゃない」
 彼女の脇をつつきながら、黒田さんが眉を寄せる。
「そうだけどさー!」
 藤沢さんは、最後のご飯を口に入れると、手を合わせる。
「ごちそうさまでした!まあ、ウチらが考えてもしょうがないし!」
 そう言って、トレイを持ち、立ち上がった。
 あたしや、他のも、同じように()も一緒に席を立つ。
「あ、杉崎さん、後で長靴の発注、お願いしますね!」
「わかったわ。用紙記入して、カゴに入れておいてね」
「ハーイ!」
 藤沢さんは、ニッコリとうなづくと、社食を後にする。
 全員がそれに続き、あたしはロッカールームへ、お弁当を片付けに向かった。
 一応、バッグの中を見やれば、スマホのランプが光っていたので、手に取る。

 ――社内改編通達、見ましたか?

 野口くんから、そんなメッセージが届いていた。
 あたしは、他に来ていないか確認し、スマホを片付ける。
 昼休みとはいえ、勤務中。
 気が散るので、返信は後だ。
 けれど、事務所に来る人達も、みんなその話題を出すので、結局、気は散ったままだった。
 どうにか、定時を十分ほど過ぎたところで終了し、あたしはバス停へと向かう。
 スマホを確認しても、メッセージは無かったので、今日はいつものように帰れるだろう。

 ――……結局、あたしは、どこに異動になるのか、わからないままだったけれど。
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