Runaway Love
「――あの、その言い方だと、逆にプレッシャーになるんじゃないでしょうか」
「――はい?」
振り返った彼は、眉一つ動かさない。
「――で、ですから……いくら、資格を持っていようが、人間です。少々のミスは想定内の方が、仕事をする上でスムーズにいくのでは」
「――……本社では、ミスをするのが当然なんですか」
「――……は?」
今度は、あたしが彼に聞き返した。
「――どういう意味でしょう」
「そのままの意味ですよ。伝わりませんか」
――完全にケンカを売られた。
そう認識した途端、先程までの彼の態度が、妙に腑に落ちてしまった。
――……そうか。この人、あたし自身が気にくわないのか。
「機械じゃないんですから、ミスは当然です。ただ、それをどう回復するか、次に繋げるかが大事なんじゃないんですか。――少なくとも、私のところには、そんな心の狭い上司はいません」
すると、古川主任は、その眼鏡の奥の目を鋭くする。
「――どういう意味でしょう」
そして、あたしと同じように聞き返してきた。
それすらも、敵意を感じ取ってしまう。
お互いに口を閉じ、にらみ合っていると、不意に部屋のドアが勢いよく開いた。
「おい、杉崎!そっち終わったか⁉」
「――早川」
振り返ると、早川がタオルで汗を拭きながら、自分の後ろを指さした。
「余裕があるなら、こっち手伝ってくれ!まあまあ、何が何だかわからねぇモンばっかりで、片付けようがねぇ!」
「――はあ?そっちでわからないなら、あたしにわかる訳……」
だが、早川は言い終える前に、あたしの腕を掴んで部屋から引きずり出す。
「古川主任、悪いが、ちょっと杉崎借りるぞ」
「――どうぞ」
そして、部屋のドアを閉めると、あたしを引きずったまま、フロアを出た。
廊下に出れば、すぐにトイレ、左側にはエレベーター。
そのすぐ隣に非常階段。
部屋側には自販機が二台。
早川は、その自販機の奥まで連れて行くと、はあ、と、大きく息を吐いた。
「ちょっと、早川。手伝いって……」
「このバカ!出向二日目で、ケンカ売るヤツがあるか!」
「え」
あたしが目を丸くしていると、早川は苦笑いしながら、頭を軽く叩いた。
「あのな、小部屋になっているとはいえ、大きい声は聞こえてくるし、窓から中も見えるんだよ」
「――え」
自覚は無かったが、声は通ったらしい。
「……まあ、お前がキレるのは、理由があるからだろうから、聞かねぇけど……程々にしておけよ」
「……だ、だって……」
思わず、子供のような言い訳をしかけるが、どうにか口を閉じた。
「……わ、悪かったわね……」
そう言って見上げると、すぐに視線をそらされた。
「早川?」
「――バカ。……あんまり、可愛いカオ見せるな」
「ハ……ハア⁉」
目を剥くあたしを、早川は、苦笑いで軽く抱き寄せる。
「ち、ちょっ……!」
こんなトコ、誰かに見られたら……!
だが、あせるあたしをよそに、早川はすぐに離し、笑った。
「あせるな、バカ」
「あせるに決まってるでしょ、バカッ!」
こんな状況で、そういうコトするんじゃない!
「――……痛っ……!!」
力任せに、あたしは、早川の足を踏みつけたのだった。
「――はい?」
振り返った彼は、眉一つ動かさない。
「――で、ですから……いくら、資格を持っていようが、人間です。少々のミスは想定内の方が、仕事をする上でスムーズにいくのでは」
「――……本社では、ミスをするのが当然なんですか」
「――……は?」
今度は、あたしが彼に聞き返した。
「――どういう意味でしょう」
「そのままの意味ですよ。伝わりませんか」
――完全にケンカを売られた。
そう認識した途端、先程までの彼の態度が、妙に腑に落ちてしまった。
――……そうか。この人、あたし自身が気にくわないのか。
「機械じゃないんですから、ミスは当然です。ただ、それをどう回復するか、次に繋げるかが大事なんじゃないんですか。――少なくとも、私のところには、そんな心の狭い上司はいません」
すると、古川主任は、その眼鏡の奥の目を鋭くする。
「――どういう意味でしょう」
そして、あたしと同じように聞き返してきた。
それすらも、敵意を感じ取ってしまう。
お互いに口を閉じ、にらみ合っていると、不意に部屋のドアが勢いよく開いた。
「おい、杉崎!そっち終わったか⁉」
「――早川」
振り返ると、早川がタオルで汗を拭きながら、自分の後ろを指さした。
「余裕があるなら、こっち手伝ってくれ!まあまあ、何が何だかわからねぇモンばっかりで、片付けようがねぇ!」
「――はあ?そっちでわからないなら、あたしにわかる訳……」
だが、早川は言い終える前に、あたしの腕を掴んで部屋から引きずり出す。
「古川主任、悪いが、ちょっと杉崎借りるぞ」
「――どうぞ」
そして、部屋のドアを閉めると、あたしを引きずったまま、フロアを出た。
廊下に出れば、すぐにトイレ、左側にはエレベーター。
そのすぐ隣に非常階段。
部屋側には自販機が二台。
早川は、その自販機の奥まで連れて行くと、はあ、と、大きく息を吐いた。
「ちょっと、早川。手伝いって……」
「このバカ!出向二日目で、ケンカ売るヤツがあるか!」
「え」
あたしが目を丸くしていると、早川は苦笑いしながら、頭を軽く叩いた。
「あのな、小部屋になっているとはいえ、大きい声は聞こえてくるし、窓から中も見えるんだよ」
「――え」
自覚は無かったが、声は通ったらしい。
「……まあ、お前がキレるのは、理由があるからだろうから、聞かねぇけど……程々にしておけよ」
「……だ、だって……」
思わず、子供のような言い訳をしかけるが、どうにか口を閉じた。
「……わ、悪かったわね……」
そう言って見上げると、すぐに視線をそらされた。
「早川?」
「――バカ。……あんまり、可愛いカオ見せるな」
「ハ……ハア⁉」
目を剥くあたしを、早川は、苦笑いで軽く抱き寄せる。
「ち、ちょっ……!」
こんなトコ、誰かに見られたら……!
だが、あせるあたしをよそに、早川はすぐに離し、笑った。
「あせるな、バカ」
「あせるに決まってるでしょ、バカッ!」
こんな状況で、そういうコトするんじゃない!
「――……痛っ……!!」
力任せに、あたしは、早川の足を踏みつけたのだった。