Runaway Love
 ――泊まる……?

 ――早川を、泊める??

 予想もしていなかった言葉に、あたしはフリーズする。
「お、おい、杉崎?」
「――な、何、で」
「お前が心配だからだろうが。別に、床で寝れば良いから」
 あっさりと言う早川は、再び濡らしたタオルをあたしに手渡した。
「夜中に何かあったら、困るだろ」
「――そ、それはそうなんだけど……」
 正論に、反論できる材料は無い。
 あたしは、大きく息を吐いた。

「……じ、じゃあ……良い、けど……」

 まさか、自分の部屋に男を泊めるなんて、思ってもみなかった。
「サンキュ」
 早川は、ホッとしたように、あたしを見た。
 でも、本当に床で寝させる訳にもいかない。
 ――どうする?ウチに、客用の布団なんて無いし、ソファも無い。
「……は、早川」
「ん?」
 あたしは、持っていたタオルを握りしめる。
 ――これは、緊急事態。
 ――仕方ない。
 自分に言い聞かせ、口を開く。

「い、一緒に、寝る……?」

「――……は……??」

 完璧に硬直した早川は、次には、耳まで真っ赤になってあたしを見た。
「バッ……!何言ってっ……!」
「だって、ウチ、客用の布団とか無いしっ……」
「だから、床で良いって」
「そういう訳にはいかないでしょ」
「ヘンなトコで真面目になるな!」
 どういう意味よ、と、返したかったけれど、本調子でないせいか言葉に詰まる。
 言い合うだけで、体力が消耗したようだ。
 すると、早川は、ベッドの端に腰を下ろした。
 そこだけ、沈み方が深い。見た目以上に体重があるんだろうか。
 ――やっぱり、男、なんだな。
 妙に感心してしまうが、どうにか思考を戻す。
「……これ以上は、お前が消耗するか。……わかった。けど、隅で良いからな」
「――う、うん……」
 真っ直ぐにあたしを見る早川を、何故か見返せなかった。

 それから、サッと身体を拭くと、早川に救急箱から冷感ジェルを持って来てもらい、額に貼る。
「そういうのって、効くのか?」
「まあ、貼らないよりは良いってだけ」
 珍しそうに、それを眺める早川は、やっぱり健康優良児だったんだろう。
 ひと通り終え、タオルと着替えた私服を洗濯カゴに入れてもらう。
 何だか、かいがいしすぎて、無意識に笑みが浮かんだ。
「杉崎、あとは大丈夫か?」
「う、うん。……ありがと」
「――じゃあ、寝るか」
 あたしがうなづくと、早川は電気を消し、ネクタイを取るとYシャツの首元を緩めた。
「そっち、落ちるなよ」
「大丈夫でしょ」
 ゆっくりと早川と間を開けようとするが、すぐにベッドの端になってしまう。
 やはり、シングルに百八十センチの男と二人は、難しいようだ。
「――ホレ、みろ」
 その様子を見ていた早川は、あたしを引き寄せ抱き込んだ。
「ちょっ……」
「だから、床で良いって言ったのによ」
「……だって……」
 早川のぬくもりが、熱で弱ったあたしには心地いい。
 反論もできず、あたしは、そのまま眠りに落ちた。
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