Runaway Love
7
どれだけ眠っていたのか。
少しだけ意識が浮上すると、思ったよりも身体は軽く感じたので、薬が効いたのだろう。
ゆっくりと起き上がり、辺りを見回す。
視線を下げると、早川はベッドに背を預け、腕を組んだまま眠っていた。
――……まったく。疲れてるはずなのに……。
こんな風にしてくれるのは、何でなんだろうね……。
すると、不意に早川の身体がガクリと傾く。
「は、早川っ……」
「――ん……?」
慌ててベッドの上から手を差し出し、どうにか支えると、早川はそれで覚醒したらしい。
あたしをキョトンと見やると、次には、我に返ったようだ。
「す、杉崎、大丈夫か?」
身体を起こし、心配そうに尋ねる早川に、あたしはうなづいた。
「……ええ……。まあ、どうにか、薬が効いてきたみたい。……だいぶ、楽になったわ」
「――そうか……。良かった……」
早川は、息を大きく吐く。
それだけで、だいぶ心配してくれたんだとわかり、胸の奥が、ほんの少しだけうずいてしまう。
けれど、それは見ないふりをする。
――それが、一番良いんだから。
「何か、してほしい事無いか?」
早川は、あたしをのぞきこむと、そう尋ねてきた。
「――別に……何も……」
首を振り、言いかけるが、自分が私服のままだと気づく。
――ああ、ヤダ。シワになっちゃう。
あたしは、ブラウスのボタンを急いで外し始める。
だが、それに、早川が過剰に反応した。
「お、おいっ!!杉崎、何っ……!」
「だって、服、シワになるの嫌だもの」
真っ赤になる早川を見上げ、あたしは淡々と返す。
「だからってな……」
「あ、そうだ。汗かいたから、脱ぐついでにシャワー浴びるわ」
「はぁ⁉」
ベッドから立ち上がるあたしを、早川は慌てて支えるが、その顔は赤いままだ。
「――ちょっと、アンタ、まさか、伝染ってないでしょうね?顔、赤いわよ」
「あのなぁ……」
あきれたように、早川はあたしを見下ろすと、続けた。
「仮にも男がいる前で、服脱ぐとか、シャワー浴びるだとか……」
「だって、汗かいて気持ち悪いんだもの」
「ああ、もう!じゃあ、身体拭くだけで良いだろ!背中くらい、俺が拭いてやるから!」
「え」
あたしは、驚いて早川を見上げる。
「――とにかく、さっきの今で、シャワーはやめておけ。動けるなら、タオル出してくれ」
「で、でも」
「今さら、何、うろたえてんだ」
早川は、そう言うと、ジャケットを脱ぎ、シャツの両腕をまくり上げる。
思った以上の筋肉に、一瞬目を奪われてしまったが、すぐに気を取り直す。
粘っても無駄のように思えたので、あきらめてクローゼットからタオルとインナー、パジャマを取り出す。
そして、早川にタオルを差し出した。
「じゃあ、ちょっと待ってろ」
言うが遅い、さっさと洗面所まで行き、タオルを濡らし始めた。
あたしは、その間に急いで着替える。
ただ、熱がまだ下がり切ってはいないから、いつもの数倍はかかるけれど。
「杉崎、後ろ向け」
どうにか間に合い、一安心している暇も無く、早川はお湯で濡らしたタオルを持って戻って来た。
あたしは、うなづくと背を向ける。
「――んっ……っ……」
瞬間、温かいタオルが背中に直接あたり、思わず声をあげてしまう。
「……おい、コラ。……変な気、起こしたくなるだろうが」
「バッ……!」
早川の言葉に、あたしは振り返ろうとするが、頭を押さえられる。
「前向いてろっての」
「……わ、わかったわよ」
言葉はぶっきらぼうなのに、優しく、そっと、拭いてくれる。
それだけで、何だか、大事にされているような勘違いをしそうで、嫌になる。
時間は数分くらいのはずなのに、随分、長い気がした。
「――どうだ、少しはマシか?」
「……うん……ありがと……」
あたしは、早川を振り返り、手を出した。
「後は自分でやるから、タオル貸して」
「あ、ああ。でも、冷めてきたから、もう一回濡らしてくるわ」
言うが遅い、さっさと洗面所に向かう早川を見やると、視界に時計が入ってくる。
――午後十一時。
「え」
「え?」
思わず声を上げると、早川に聞き返された。
「じ、時間!」
「ああ、十一時だな」
「じゃなくてっ……」
あたしが慌てるのをよそに、早川は、あっさりと返した。
「――このまま、泊まっても良いか?」
「――え」
少しだけ意識が浮上すると、思ったよりも身体は軽く感じたので、薬が効いたのだろう。
ゆっくりと起き上がり、辺りを見回す。
視線を下げると、早川はベッドに背を預け、腕を組んだまま眠っていた。
――……まったく。疲れてるはずなのに……。
こんな風にしてくれるのは、何でなんだろうね……。
すると、不意に早川の身体がガクリと傾く。
「は、早川っ……」
「――ん……?」
慌ててベッドの上から手を差し出し、どうにか支えると、早川はそれで覚醒したらしい。
あたしをキョトンと見やると、次には、我に返ったようだ。
「す、杉崎、大丈夫か?」
身体を起こし、心配そうに尋ねる早川に、あたしはうなづいた。
「……ええ……。まあ、どうにか、薬が効いてきたみたい。……だいぶ、楽になったわ」
「――そうか……。良かった……」
早川は、息を大きく吐く。
それだけで、だいぶ心配してくれたんだとわかり、胸の奥が、ほんの少しだけうずいてしまう。
けれど、それは見ないふりをする。
――それが、一番良いんだから。
「何か、してほしい事無いか?」
早川は、あたしをのぞきこむと、そう尋ねてきた。
「――別に……何も……」
首を振り、言いかけるが、自分が私服のままだと気づく。
――ああ、ヤダ。シワになっちゃう。
あたしは、ブラウスのボタンを急いで外し始める。
だが、それに、早川が過剰に反応した。
「お、おいっ!!杉崎、何っ……!」
「だって、服、シワになるの嫌だもの」
真っ赤になる早川を見上げ、あたしは淡々と返す。
「だからってな……」
「あ、そうだ。汗かいたから、脱ぐついでにシャワー浴びるわ」
「はぁ⁉」
ベッドから立ち上がるあたしを、早川は慌てて支えるが、その顔は赤いままだ。
「――ちょっと、アンタ、まさか、伝染ってないでしょうね?顔、赤いわよ」
「あのなぁ……」
あきれたように、早川はあたしを見下ろすと、続けた。
「仮にも男がいる前で、服脱ぐとか、シャワー浴びるだとか……」
「だって、汗かいて気持ち悪いんだもの」
「ああ、もう!じゃあ、身体拭くだけで良いだろ!背中くらい、俺が拭いてやるから!」
「え」
あたしは、驚いて早川を見上げる。
「――とにかく、さっきの今で、シャワーはやめておけ。動けるなら、タオル出してくれ」
「で、でも」
「今さら、何、うろたえてんだ」
早川は、そう言うと、ジャケットを脱ぎ、シャツの両腕をまくり上げる。
思った以上の筋肉に、一瞬目を奪われてしまったが、すぐに気を取り直す。
粘っても無駄のように思えたので、あきらめてクローゼットからタオルとインナー、パジャマを取り出す。
そして、早川にタオルを差し出した。
「じゃあ、ちょっと待ってろ」
言うが遅い、さっさと洗面所まで行き、タオルを濡らし始めた。
あたしは、その間に急いで着替える。
ただ、熱がまだ下がり切ってはいないから、いつもの数倍はかかるけれど。
「杉崎、後ろ向け」
どうにか間に合い、一安心している暇も無く、早川はお湯で濡らしたタオルを持って戻って来た。
あたしは、うなづくと背を向ける。
「――んっ……っ……」
瞬間、温かいタオルが背中に直接あたり、思わず声をあげてしまう。
「……おい、コラ。……変な気、起こしたくなるだろうが」
「バッ……!」
早川の言葉に、あたしは振り返ろうとするが、頭を押さえられる。
「前向いてろっての」
「……わ、わかったわよ」
言葉はぶっきらぼうなのに、優しく、そっと、拭いてくれる。
それだけで、何だか、大事にされているような勘違いをしそうで、嫌になる。
時間は数分くらいのはずなのに、随分、長い気がした。
「――どうだ、少しはマシか?」
「……うん……ありがと……」
あたしは、早川を振り返り、手を出した。
「後は自分でやるから、タオル貸して」
「あ、ああ。でも、冷めてきたから、もう一回濡らしてくるわ」
言うが遅い、さっさと洗面所に向かう早川を見やると、視界に時計が入ってくる。
――午後十一時。
「え」
「え?」
思わず声を上げると、早川に聞き返された。
「じ、時間!」
「ああ、十一時だな」
「じゃなくてっ……」
あたしが慌てるのをよそに、早川は、あっさりと返した。
「――このまま、泊まっても良いか?」
「――え」