Runaway Love
「……早川」

「――……辞めて、どうする気だよ」

 その問いには、首を振って返す。
「わからない。――とにかく、先輩の事が解決するまでは、何もできないと思う……」
 それが、いつになるのか――それすらも、わからない。
 それでも――もう、一人だけでどうにかしようとは思わない。

「……大丈夫……。――……間違えないから……」

「……茉奈」

 自分の手に余る事は、頼っても良い。
 ――頑なにならなくても、助けてほしいと、手を伸ばせば――きっと、その手を取ってくれる人はいる。

 それは、これまで出会った人達が教えてくれた。

 そして――父さんが遺してくれた言葉だ。

「……ま、まあ、どうにもならなかったら、警察駆け込むし。――アンタだって、何かあったら、頼って良いんでしょ?」

 早川は、あたしを離すと、真っ直ぐに見つめる。

「――……当然だろ。……なら、まず、辞めなくても解決する方法、考えようぜ?」

「早川」

「……まあ、それでもダメで、辞めなきゃならねぇって言うんなら、俺のトコ来いよ。お前ひとり養うくらいは何とでもなる」

 あたしは苦笑いして、軽く早川の胸を叩く。
「バカ。それじゃあ、結婚するって事と同じじゃないの?」
「バレたか」
「それに、アンタに養われなくても、あたしは一人で生きていける」
 早川を見上げ、あたしは言い切った。
「――元々、そのつもりだったんだし、貯金だって再就職まで、何とかなるくらいにはあるわよ。何があっても、老後まで困らないようにはしてるつもりだから」
「ハハ……何だよ、その完璧な人生設計は」
 半ばあきれたように笑い、早川はあたしを抱き寄せる。
「ちょっとは、つけこむスキを見せろよ」
「嫌よ、そんなの」
 すると、軽くおでこにキスを落とし、早川は離れる。
「ったく、可愛くねぇ」
「そんな女にプロポーズしてるのは、どこのどいつよ」
「俺だろ」
 クスクスと笑い、軽く口づける。
 もう、習慣になっているんじゃないか、コイツは。
 それを避けないあたしもあたしだ。

 ――だって、嫌じゃない。

 それが、たとえ、恋愛感情とは別のものでも――コイツの存在が大きいのは、もう、揺るがない。

「――……ありがと。……少しだけ、気が楽になった気がするわ」

「……そうか」

 早川は、頬にキスを落とすと、あたしの髪をゆっくり撫でた。

「――……じゃあ、何かあったら、すぐに連絡しろ。いつでもいいから」

「……うん……」

 あたしがうなづくと、早川はドアの向こうへと去って行った。


 ――……大丈夫。

 ……ちゃんと、向き合える。


 たとえ――それで、傷ついても、後悔しない。


 その後の事は――それから考えよう。


 あたしは、目を伏せ、身体を自分で抱き締める。

「――……そしたら……きっと、答えが出せるから……」

 自分に言い聞かせるように、つぶやいた。
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