Runaway Love
 信号が変わり、車が再び動き出す。
 あたしは、再び背もたれに背中を預けると、暗くなっていく街中を見やる。
 窓の外を流れていく、明る過ぎるライトでアピールされる店の看板は、情報過多で目が痛い。
「……まあ、野口くんの自由だけどさ。もったいないな。カッコイイのに」
 彼を見やり、そう言うと、少しだけ気まずそうに返された。
「――……中坊の時、クラスの女子にストーカーまがいの事されて以来、隠すようにしてるんですよ」
「……それは……」
 モテて困る、という事なのだろうか。
 そう思うが、野口くんは、本気で嫌そうな表情(カオ)をしているのだ。
 他人には、その事情はわからないんだから、呑気に思わない方が良いのかも。
「――まあ、だからなんでしょうね。……恋愛したくないって思うのは」
「……事情は人それぞれだからね」
 あたしはうなづくと、視線を窓の外に向けた。
 これ以上は、踏み込まない方がいいような気がする。
 ――あれ?
 ふと、車が駅裏方面に向かっているのに気づき、あたしは野口くんに尋ねた。
「ねえ、店、どこに行くの?」
「ああ、この辺なら、”けやき”が一番手っ取り早いかなと……」

「ま、待って!」

 あたしが血相を変えたので、野口くんは、左手前に見えたコンビニに入り、車を停めた。
「どうかしましたか?」
 そうだ。”けやき”は、ここら辺じゃ、デートの選択肢の一番最初に来るような店だ。
 あたしは、不思議そうに見る野口くんを見上げた。
「……その……二股のウワサの、もう一人の……おじいさんがやってる店で……」
「え」
「……彼も……ホールのバイトしてるって言ってた……」
 野口くんは、すぐに、コンビニを出ると、方向を変えてバイパスに上がった。
「それは……一番マズい選択肢でしたね」
「ごめんなさい。言っておけば良かったわね」
「いえ、仕方ないです」
 そのまま、車は、インターを二つ越え、全国チェーンのファミレスに到着した。
 国道沿いのそこは、あまり、客層にしばられない。
 今も、会社帰りの団体や、家族連れ、学生などが店に入って行くのが見える。
「まあ、ここなら、デートという意味合いも薄れますし」
 駐車場は少し混み合っていたが、入り口から離れた場所は、まだ空いている。
 野口くんは、車を停めると、また、先に降りて助手席のドアを開けた。
「……あ、ありがと」
 あまりに自然過ぎるが、彼は、何でもない事のように振る舞う。
 コレは、恋人としては、普通の事なんだろうか。
 思わず悩んでしまう。
「杉崎主任、どうかしました?」
「え、あ、ううん」
 すると、野口くんは、少しだけ口元を上げて言った。
「偽装とはいえ、彼氏なんで。――ダメな事は、早目に言ってください。善処しますから」
 言ってる意味は、意外と甘い。
 でも、口調は完全に業務中のもので――あたしは、思わず笑ってしまった。
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