Runaway Love
 見るともなしにテレビをつけると、バラエティや情報番組ぐらいしか無い。
 BGMにするにはうるさいので、すぐに消した。
 何となく、しん、と、した部屋が、寂しく感じてしまう。
 ここ最近、騒がしすぎるほどに騒がしかったせいだろうな……。
 今まで、ずっと、こんな風だったはずなのに――……。
 あたしは、心の奥の感情を、見ないふりをして、夕飯を終える。
 片付けを終え、明日の服を準備。
 お風呂を張っている間に、昨日、野口くんから借りた本を手に取った。
 結局、昨日は読むどころじゃなかったから、せめて半分くらいまでは読みたい。
 そう思いながらページをめくると、思った以上に入り込んでしまい、気がつけば二時間ほどで読み終えてしまった。
「……ヤバイ……止まらなかった……」
 時計を見やれば、既に十一時を回っていた。
 ――ああ、お風呂、冷めちゃったかしら……。
 あたしは、恐る恐る、お風呂のふたを開けて手を入れる。
 水までとはいかないが、やっぱり冷めているようだ。
 まあ、仕方ない。
 お風呂には追い炊き機能もついているので、あたしはスイッチを押す。
 ガス代がかかるから、あんまりしたくないんだけど、仕方ない。
 この前のように、熱でも出たらと思うと、背に腹は代えられないのだ。
 そのまま服を脱ぐと、すぐに洗濯機に放り込んだ。
 そして、湯船につかると、思わず大きく息を吐く。

 ――まったく、最近、ホントに目まぐるしすぎるのよ。

 あたしは、心の中でボヤく。

 それもこれも――……岡くんが現れてから。

 ――……覚えてない夜は、いまだに思い出せない。

 ――……一体、何があったのか。あたしは、何を言ったのか。
 何をしてしまったのか――……思い出せないのは、本当に、飲み過ぎて記憶が飛んだだけ……?

 あたしは、自慢じゃないけれど、お酒を飲み過ぎた事も無ければ、記憶が無くなった事も無い。
 もちろん、酔いつぶれてしまった事も。

 あたしは、自分の肌を湯船の中で、ひと撫でする。

 そして――……何で、自分の身体なのに、コントロールがきかないんだろう。

 あたしは、思わず顔を伏せる。
 だが、お湯が顔面に触れ、反射的に顔を上げてしまった。
 湯船の中に揺らいで見える自分の裸は、とてもじゃないけれど、見せられるものではないのに――。

 ――よく、抱く気になったもんだわ……。

 大きくため息をつくと、勢いよく立ち上がる。
 反動で、お湯が波打った。

 ――……もう、考えてもしょうがない。

 ――……忘れるのが、一番。

 ――……逃げるのが、一番、楽。


 これ以上、自分の心を乱されるのは、嫌なんだから――……。
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