Runaway Love
 ”すぎや”の駐車場に置かれた乗用車のロックを解除すると、岡くんはあたしを助手席に乗せる。
 あたしは、されるがままだ。
「――ここからだと、二十分くらいですね」
 そう言いながら、車を発進させる岡くんを見やる。
「……アンタは……知ってたの……」
「式の時に、テルから聞きました。――まあ、ウチ、兄二人、どっちも結婚して子供いるんで、何となく見てたら、そうかなって思ってたんですけど」

 ――完全に、あたしだけ、仲間はずれ。

 そう思ってしまった。

 三年も、実家と疎遠だったのに、こんな時だけ被害者面なんて、バカみたい。
 でも――連絡のひとつもくれて良いと、思ってしまうのだ。
 仮にも、一時(いっとき)は親代わりだったのだから。

「奈津美、最初、()ろすつもりだったんですよ」

「え⁉」

 暗くなっていく平和な街並みにそぐわない言葉に、あたしは目を剥く。
「ちょっ……あのコ、何考えてっ……!」
「だって、結婚どころか、別れる寸前だったんですから」
「え」
 あたしは、幸せそうな二人を思い出し、眉を寄せた。
 岡くんは、前を見ながら、少しだけ悲しそうに笑う。
「――茉奈さんに言うのは違うと思うんですけど……奈津美って、すぐに男女問わず、誰とでも仲良くなるじゃないですか。……それが良いところだとは思うんですけど――……」
「……照行くんには、我慢ならなかったのね」
 あたしが言葉を引き継ぐと、岡くんは黙ったままうなづいた。
 奈津美の、あの性格は、昔からだ。
 今さら直す気も無いのは、わかりきっている。
「テル、中坊の時から、ずっと好きだったから――その分、独占欲強くなった時期があって……奈津美の交友関係に口出ししすぎて」
 そう言いながら、岡くんは国道から駅裏方面へと右折する。
 線路を渡れば、”けやき”の看板が見えてくるはずだ。
「まあ、詳しいコトはわからないですけど。……就職してから、また、アイツ、悪いクセが出たみたいで、奈津美がキレちゃって」
「――……何か、アンタにも迷惑かけたみたいね……」
 申し訳なさで、身が縮まる。
 岡くんは、苦笑いで首を振った。
「――いえ。オレ、昔から知ってるから……何だかんだ言っても、奈津美もテルも、お互い好きだってわかるんですよ。だから、ちょっと、間に入っただけです」
「そう……」
 あたしは、視線を窓の外に向けた。
 駅に向かう電車が、視界に入る。
 岡くんは、店の駐車場を通り過ぎると、裏道に入った。
 少し小さめの駐車場に、五台の車。
 どうやら、こちらは家の人の場所らしい。
 空いていた場所に車を停めると、岡くんはシートベルトを外す。
「着きましたよ、茉奈さん」
「あ、う、うん……。……ありがと……」
「……落ち着きました?」
「――少しだけ、ね」
 あたしはうなづくと、助手席から降りる。
 不意に風が吹き、一つ結びにしていた髪が舞い踊った。
 すると、いつの間にか隣にいた岡くんは、それを愛おしそうに撫でて押さえる。
「すごい風ですね。台風でも来るのかな」
「――……さあね……」
 あたしは、視線をそらすと、持っていた紙袋を握り直した。
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