りつとるね
言葉がうまく出ないから、ピアノで伝えようとしている? 少なくとも音楽なら、間違って伝わっても人を傷つけたりしないもんね。

やがて、律が言った。
「おまえが一番ダメだ」
「ヘ?」
振り返ると律は真顔だ。
「おまえが相手だと、ますます言葉が出ない」
ーー私は律にとって天敵ってこと? それとも、その反対って思っていいの?
「じゃあ、なんでピアノ教えてくれたの?」
「……なんか、おまえが泣くの、やだったから」

少し待ってみたけど、それ以上の言葉は聞けなかった。
きっと、それが今の律にとって精一杯の言葉だ。それ以上でもそれ以下でもないのかもしれない。
でも、律が一生懸命伝えてくれたその言葉だけで、今は満足だ。
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