お願い、成仏してください! ~「死んでも君を愛する」と宣言した御曹司が幽霊になって憑きまとってきます~
 課長の江上(さとる)さんは眼鏡をかけた理知的な姿が素敵で、優しい。三五歳で女性人気はナンバーワンだ。

 その彼が独身に戻ったなんて、彼女たちが騒ぐのも無理はないと思う。

 私もかつてちょっとだけ憧れていたときがあった。憧れだけで恋じゃなかったけど。

「奥さんの浮気で別れたんだって」
「調査会社も入って、大変だったって」
「へえ、お金かかるよねえ」
「ちゃんとした会社を使わないと大変らしいよ」

「調査でお金も使わないといけないって、ダメージ大きすぎる」
 私はぞっとした。

「課長、狙っちゃおうかな。傷心のときって狙い目だよね」
 同僚が言った。

「競争率高そうだけど」
 私がつっこみ、みんなで笑い合う。

「私は課長より御曹司がいいなあ」
 一人が雑誌を取り出して言う。

「遠くの御曹司より近くの課長よ」
 別の一人がそう言って覗き込み、イケメンだ、とつぶやいた。

「紗智は誰が好み?」
「なに?」

「イケメン御曹司特集だよ」
「紗智はこんなのどうでもいいよねえ。ラブラブの彼氏がいるんだもん」

「御曹司かあ」
 縁のない存在だな、と思いながら特集ページを見て、驚いた。

「これ……本当に?」
「本当にってなによ」

「嘘雑誌じゃなくて?」
「はあ?」
 同僚はきょとんとしている。

 私はその紙面をガン見した。
 御曹司の一人として、彼が載っていたからだ。

 柚城一途。大手家電メーカー、サニー・エレクトロニクスの社長の息子。出世街道まっしぐら!

 彼はカメラ目線でにっこりと笑っていた。
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