お願い、成仏してください! ~「死んでも君を愛する」と宣言した御曹司が幽霊になって憑きまとってきます~
 彼の甘いマスクに女性はメロメロ! とかなんとか煽り文句が載っている。
 煽りのセンスが古い、と頭の奥でぼんやりと思った。

 御曹司。
 そんなこと、今まで彼から一言たりとも言われたことはなかった。

「どうしたの? 大丈夫?」
「あ、うん」
 同僚に話しかけられて、我に返った。

「今日は用事があるから、お先に失礼します」
 そう言ってロッカールームを出た。

 エレベーターに乗って、さきほどの雑誌のことを考える。

 どう見ても彼だったし、名前も同じだ。
 もしかして。
 私はようやく思い至った。

 今日はプロポーズじゃなくてこの話だったのかな。
 そうして、なんとなくホッとした。

 秘密を抱えて私を騙そうとしたわけじゃないんだ。きっとそうだ。
 だったら、子供ができたと言っても受け入れてくれる……よね?



 不安を抱えたまま会社を出たときだった。
 一人の女性に呼び止められた。

「相馬紗智さんですね?」
「そう……ですけど」
 私は戸惑いながら彼女を見た。

 彼女はお腹が大きくて、妊娠しているようだった。ふんわりした服を着て、険しい顔で私をにらむ。その目にあるのははっきりした憎悪と敵意。

 どうして、と動揺する私に彼女は言う。

「彼と別れて」
「は?」
 私は思わず聞き返した。

「カズミチはこの子の父親なの」
 膨らんだお腹を撫でながら、彼女は言った。

 私は絶句して彼女を見た。

「いつまでたっても籍を入れてくれないから、探偵を使って調べたの。そしたら、あなたと浮気してるってわかったの! 私のほうが先に婚約してたのよ!」
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