お願い、成仏してください! ~「死んでも君を愛する」と宣言した御曹司が幽霊になって憑きまとってきます~
「私が聞いたのと違います」
 梶尾さんがけげんそうに私を見る。

「ボールペンを落として、拾おうとして轢かれたって」
「誰から?」
 私は言葉につまった。幽霊になった彼から聞いたなんて言えない。

「……夢の中で、彼が」
「こいつ、昨日まで意識不明だったんだ。だから魂だけ、相馬さんのところに行ったのかな」

 どきっとした。

「子どもをかばったって言いたくなかったんだろうな。かっこつけるところが間違ってるのがあいつらしいな」
 梶尾さんは静かな微笑を浮かべた。

「意識不明だったって……」
 梶尾さんはうなずく。

「昨日まで意識不明だった。それが、とうとう……」

 梶尾さんの言葉に、私は崩れ落ちた。

 そんなことって。
 それが事実なら、昨日まで彼は生きていたということになる。

 彼は、最期に私に会いに来てくれたんだ。
 涙があふれた。

 カズは私の中で三度死んだ。
 一度目は彼が幽霊になって会いに来たとき。
 二度目は、成仏したと思ったとき。
 三度目は今。

 神様は残酷だ。なぜ、なんども彼の死を見せつけるのだろう。

 うう、と漏れる嗚咽を必死で抑え、彼の手を探す。

 かけ布団に入った彼の手を握ると、ぎゅっと握り返された。

 え!?
 私は驚いてとびのいた。

 彼のまぶたがゆっくり開き、私を見た。

「ゾンビ!? 成仏して!」
 思わず叫ぶ。

「失礼だな」
 カズは苦笑した。
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