ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
 なんだかエミリーの口調が刺々しい。私を病院に留めておけない様子だ。

「マスコミ対策なら病院も徹底している。わざわざ移動しなくとも」

 真田氏はエミリーと向き合い、彼女の怒りを正面から受け止める。

「桜の動画を拡散する手伝いをしておきながら、よくもまぁ! ハッシュタグの『片翼のミューズ』ってそちらの関係者が付けたとか?」

「そ、それは……只今調査中でして」

「日本では“怪我の功名”と言うんだっけ? 炎上騒ぎで事態を知った高名な医師から、桜を治したいと話が貰えたから良いものの」

「俺に執刀を任せて頂けないと?」

「ーーという可能性が出てきたわ。情報を精査してからお返事する。良いよね、桜?」

 私が寝ている間に色々動きがあり、その事柄は自分にとって良いのか悪いのか。起き抜けでは判断を見誤りそう。

「とりあえず説明して」

「当然そのつもりよ! あ、食事しながら話さない? お腹空いちゃって」

 ずっと付き添い、対応をしてくれたエミリー。私にあまり食欲はないが、彼女を空腹のままにしておくのは良くないか。

 額に手をやる。本当はもう少し眠りたい。

「食事でしたらお一人でどうぞ。桜さんは安静にお願いします。明日も検査がありますので今夜はこちらでお休み下さい。ご家族へは私から連絡しておきましょう」

 再び横になるよう背中へ手を添えてきた。

「ドクター、私達は仕事の話をしなきゃならないの。邪魔しないでくれる?」

「俺も医師(仕事)として安静を指示しました。各所対応で忙しいとお察ししますが、桜さんに無理をさせたら意味がない。日本じゃそれを“元の木阿弥”と言います」
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