ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
 エミリーを遣り込める人を初めて見たかもしれない。

「“腹が減っては戦はできぬ”とも言うし、食べてきてエミリー」

 私が続けると肩を竦めた。

「それじゃあ美味しいハンバーガーを探してくるわ。きっと明日まで見付からないだろうけど」

 これは今日はもう戻らないという言い回しだ。頷き、軽く手を振る。

 テーピングの効果だろうか? 痛みと熱は帯びたままだが振りやすい。
 エミリーを見送り、手首を寄せた。

「見栄えは良くないが、楽になるだろう?」

「……まぁまぁね。腱鞘炎を隠さなくても良くなったから、これからは巻く」

「じゃあ、テーピングの巻き方も含めて明日ちゃんと説明する。今夜は寝ろ」

 ぽんぽん、と頭を撫でられる。彼からすれば別段意味はない仕草でも癇に障った。

「子供扱いしないで、私は平気。自分で考え、自分で決められるから。同情なんかごめんよ」

 そっぽを向く。

「ふむ、子守唄が必要なら歌おうか? ぼくらはみんなーいきているー」

「やめて、耳がおかしくなる!」

「ひどいなぁ、ミミズだってオケラだって真田先生だって友達だろ?」

 耳障りな歌に布団を頭まで被り、丸まる。どうしてだろう、真田氏は多くを語らないのに私の心を包み込む。

「心にもテーピングを巻けたらいいのに」

「……やめとけ。あなた達は感情を表に出していいんだ、医者とは違う。悲しみも怒りも喜びも旋律に乗せて表現すればいい。そうじゃないか?」

「クラシックは詳しいの?」

 間があく。

「いや全然。あなたが目覚めた時、それらしい事が言いたくてネットで検索してたんだ」
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