かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~

婚約指輪

「さっそく婚約指輪を買いに行こう」
「婚約指輪?」
 月曜日、帰ってくるなり、拓斗は望晴に告げた。
 おうむ返しに聞いて、望晴は首を傾げた。
「婚約したなら指輪が必要だろう」
 祖父への偽装工作をしたいようで、当然のように拓斗が言う。
 彼の祖父のところに行くのは一回きりだというのに、そこまでする必要があるのかと望晴は戸惑った。
「本当にいりますか?」
「婚約指輪をはめていない理由を聞かれたらどうするんだ。俺がそんな甲斐性もないと思われるのも嫌だ」
「でも……」
「母によると、ここの近くにちょうどいい宝石店があるらしい。君が好きなのを選べばいい」
 この近くの宝石店なんて高級ショップに違いない。
 偽の婚約者に贈るには高すぎる買い物だろうと望晴はあきれた。
 それでも、やるなら万全を期したいという気持ちはわかるので、望晴は溜め息をついて言った。
「……わかりました。お仕事帰りにでも時間をいただければ」
「わかった。七時半ぐらいに行けば間に合うだろう?」
「そうですね。そのときは店長に言って、早上がりさせてもらいます」
 G.rowで服を買うときもだいたいその時間に拓斗は来る。
「わかった。じゃあ、明日はどうだ?」
 せっかちな彼らしく早速予定を決めようとする。
 でも、望晴は首を横に振った。
「今日の明日じゃさすがに急すぎます。明後日ではいかがですか?」
「わかった。甲斐に調整させよう。じゃあ、水曜の七時半に君の店に行く」
「承知しました」
 問題は片づいたとばかりに拓斗は微笑んだ。

 水曜になり、帰り支度を整えた望晴は拓斗が来るのを待っていた。
「おっ、望晴、婚約者殿がいらっしゃったぞ」
 啓介がからかい気味に声をかけてきた。彼に事情を話したら、おもしろがられてしまったのだ。
 チャコールグレーのビジネスコートを身にまとったスタイリッシュな拓斗が近づいてくる。
「ふり、ですよ!」
 小声で否定するが、啓介はにやにや笑いを崩さない。さらに笑みを深めて拓斗を出迎えた。
「由井様、こんばんは」
「あぁ、こんばんは。西原さんを借りてすまないな」
「いいえ、どうぞどうぞ」
 居たたまれなくなった望晴は拓斗の腕を引っ張り店から連れ出した。
「時間がないので、行きましょう。店長、お先です」
「お疲れ~」
 啓介が手を振った。
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