かりそめ婚のはずなのに、旦那様が甘すぎて困ります ~せっかちな社長は、最短ルートで最愛を囲う~
「ただいまです」
「おかえり」
いつもと逆の挨拶をして、望晴がリビングに入ると、拓斗が困り顔で話しかけてきた。
「帰って早々悪いが、頼みがあるんだ……」
それは彼がコーディネートをやり直してほしいと言ってきたときと同じ顔だった。
めずらしく口ごもっているので、望晴は首を傾げた。
「なんでしょう? 由井さんにはお世話になっているので、私にできることならなんでもやりますよ」
それに勇気が湧いたといった様子で拓斗が話し出す。
「実は母から電話があったんだ。僕に婚約者ができたと母が祖父に言ってしまって、そうしたら、一度君に会いたいと言い出して……」
「えぇー!」
まだ藤枝は誤解したままだったのかという驚きと、祖父のもとに行ったらますます誤解を助長してしまうんじゃないかという懸念で声をあげる。
「申し訳ないが、老い先短い年寄りの頼みを聞いてやってもらえないか?」
聞くと、拓斗はおじいちゃんっ子で、夏休みなどの長期休みは彼の家に入り浸り、ずいぶんかわいがってもらったらしい。
三十歳を過ぎても結婚する気配のなかった拓斗にようやく相手ができたと聞いて、祖父は大喜びしていたという。
体調が悪く臥せりがちな祖父に心労を与えたくないそうだ。
「だから、婚約者として祖父のところについてきてほしいんだ」
先ほど言ったとおり、ずいぶん世話になっている拓斗の頼みだから、聞いてあげたいとは思うものの、想定外の頼みに望晴は思案した。
(ずっとごまかすわけにはいかないと思うけど……)
それでも、彼が望むなら、拒否できるはずはなかった。
「……私でいいんですか?」
「そりゃもちろん。君じゃないと意味がないだろう」
要はつじつま合わせか、と失望しかけて、自分で自分の思考を不審に思う。
(なに考えてるんだろう、私。一度抱かれただけなのに、なにを期待してるの?)
湧いた想いを振り払い、望晴は答えた。
「そういうことなら、お供します」
「ありがとう。助かるよ」
ほっとした顔で拓斗が礼を言う。
望晴は慌てて、首を振った。
「いいえ、由井さんに少しでもご恩がお返しできるなら、こちらもうれしいです」
そう言ったものの、次の拓斗の言葉にふたたび驚く。
「それで、悪いが土日で休めるときはあるか? 祖父は京都に住んでいるんだ。日帰りで行けなくもないが、さすがに一泊はしたいところだ」
「おじいさまも京都にお住まいなんですか? 私の実家も京都なんです」
「あぁ、前にそう言ってたな」
拓斗は覚えていたようでうなずいた。縁があるものだと思った。
「しばらく実家にも帰っていないので、顔を出してもいいですか?」
「もちろんだ。京都市内か?」
「はい、そうなんです。御所の近くで」
「近いな。はるやの近くと言ってたもんな」
「ご近所なんですね!」
それなら移動も楽だと喜んだ。
「それじゃあ、店長にシフトを相談してみますね」
G.rowの従業員はもう一人いて、子どもがいるので、平日の五時までの勤務だが、一週ぐらいなら代わってくれるはずだ。
翌日、二人に相談すると快諾されたので、京都に行くのは翌週末になった。
「おかえり」
いつもと逆の挨拶をして、望晴がリビングに入ると、拓斗が困り顔で話しかけてきた。
「帰って早々悪いが、頼みがあるんだ……」
それは彼がコーディネートをやり直してほしいと言ってきたときと同じ顔だった。
めずらしく口ごもっているので、望晴は首を傾げた。
「なんでしょう? 由井さんにはお世話になっているので、私にできることならなんでもやりますよ」
それに勇気が湧いたといった様子で拓斗が話し出す。
「実は母から電話があったんだ。僕に婚約者ができたと母が祖父に言ってしまって、そうしたら、一度君に会いたいと言い出して……」
「えぇー!」
まだ藤枝は誤解したままだったのかという驚きと、祖父のもとに行ったらますます誤解を助長してしまうんじゃないかという懸念で声をあげる。
「申し訳ないが、老い先短い年寄りの頼みを聞いてやってもらえないか?」
聞くと、拓斗はおじいちゃんっ子で、夏休みなどの長期休みは彼の家に入り浸り、ずいぶんかわいがってもらったらしい。
三十歳を過ぎても結婚する気配のなかった拓斗にようやく相手ができたと聞いて、祖父は大喜びしていたという。
体調が悪く臥せりがちな祖父に心労を与えたくないそうだ。
「だから、婚約者として祖父のところについてきてほしいんだ」
先ほど言ったとおり、ずいぶん世話になっている拓斗の頼みだから、聞いてあげたいとは思うものの、想定外の頼みに望晴は思案した。
(ずっとごまかすわけにはいかないと思うけど……)
それでも、彼が望むなら、拒否できるはずはなかった。
「……私でいいんですか?」
「そりゃもちろん。君じゃないと意味がないだろう」
要はつじつま合わせか、と失望しかけて、自分で自分の思考を不審に思う。
(なに考えてるんだろう、私。一度抱かれただけなのに、なにを期待してるの?)
湧いた想いを振り払い、望晴は答えた。
「そういうことなら、お供します」
「ありがとう。助かるよ」
ほっとした顔で拓斗が礼を言う。
望晴は慌てて、首を振った。
「いいえ、由井さんに少しでもご恩がお返しできるなら、こちらもうれしいです」
そう言ったものの、次の拓斗の言葉にふたたび驚く。
「それで、悪いが土日で休めるときはあるか? 祖父は京都に住んでいるんだ。日帰りで行けなくもないが、さすがに一泊はしたいところだ」
「おじいさまも京都にお住まいなんですか? 私の実家も京都なんです」
「あぁ、前にそう言ってたな」
拓斗は覚えていたようでうなずいた。縁があるものだと思った。
「しばらく実家にも帰っていないので、顔を出してもいいですか?」
「もちろんだ。京都市内か?」
「はい、そうなんです。御所の近くで」
「近いな。はるやの近くと言ってたもんな」
「ご近所なんですね!」
それなら移動も楽だと喜んだ。
「それじゃあ、店長にシフトを相談してみますね」
G.rowの従業員はもう一人いて、子どもがいるので、平日の五時までの勤務だが、一週ぐらいなら代わってくれるはずだ。
翌日、二人に相談すると快諾されたので、京都に行くのは翌週末になった。