君のブレスが切れるまで―on a rainyday remember love―
 2012年 6月


 歳が二桁に上がり、気がつけば十一になる。身長は多少上がったが、手を伸ばしてみてもあの子には届かない。
 補修しながら騙し騙し使っていた思い出傘には穴が空き、ベースとなる骨組みもボロボロとなり傘という機能を失いかけていた。このまま使用を続ければ、取っ手からポキリといくのも時間の問題だろう。
 あんなに大切にしていたのに、どうしても物というものは劣化してしまう。
 私はどうなのだろう? 言うなれば人の劣化品、下位互換か。


 連れられる場所によって変わる部屋と机、そこへ思い出を飾りつける。
 両親の顔よりもこの傘を見た回数の方が多い。私の中には既にもう両親に対する『何か』は無くなっていた。けれども連れられていれば、その分私は賢くなれる。二人が私を研究に使うのならば、私も彼らを利用させてもらうだけ。しかし、これ以上私から渡すものは何もない。二人には十分すぎるほどの技術を渡してしまったはずだから。
 ふいに扉をノックする音が聞こえ、向こうにいる人物を通す。


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