君のブレスが切れるまで―on a rainyday remember love―
「不気味な眼でしょう? 真っ赤で……」
「そんなことは…………」
「ああ。そういえば名前を決めていなかったわね。何にしようか――」


 総一朗の返答に興味がないのか、母親は私に目線を落とす。
 揺れることすらしない瞳。愛情の一欠片も籠もっていない虚ろな目は、もうすぐ夏を迎えるはずの季節を逆戻りさせるかのように冷ややかだった。
 視線が私から窓ガラスへと移動すると、淡々とした声で私の名が決められる。


「雨が降ってるわね。〝(あめ)〟にしましょうか」
「……奥様」
「意味なんてなくてもいいでしょ。名前なんて、人物を呼ぶことの記号以外に他ならないのだから」
「ううぅぅ……うぅぅぅうう!」


 嫌、だったのだろうか? 幼子だった私は泣き始めてしまった。しかし、そんな私にも興味がないのか、母親は「よろしく頼んだわよ」と、総一朗へ全てを任せた。それから私は田舎に建てられた大きな屋敷で過ごすことになる。
 父親と初めて会ったはもう少し後。この屋敷は両親のどちらもほとんど帰ってこない場所のようで、出会えたのは仕事の都合でたまたまここへ立ち寄ったとき。
 残念ながら母親と同じく仕事一辺倒の父親も、私に興味を抱くことはなかった。少しだけあったとすれば、この赤い眼か。だが、それだけで赤子の私を置いてどこかへと行ってしまう。


< 3 / 71 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop