君のブレスが切れるまで―on a rainyday remember love―
『そのようなことは……』


 私の意図が伝わってしまったのか、受話器越しに総一朗の苦笑顔が目に浮かぶ。
 いつもごめんなさい、私はわがままを言いすぎているわ。


「それでも少人数での研究が続いているのは確か。二人に連絡してみて了承を得たら、帰る予定よ」
『承知いたしました。では、日程が決まり次第お知らせください。空港まで車を向かわせましょう』
「助かるわ、それじゃまた」
「はい。お嬢様、お体にお気をつけて」
「総一朗もね」


 区切りがついたところで話を終え、受話器を置く。
 時が止まったように静まり返る家。私以外に誰も帰らないここは、また姿を変えていた。


「あの二人が電話を取るかどうかすら、怪しいわね」


 耳元に今度はスマートフォンを当てる。
 しかし、想像通りだ。コール音は私の耳元だけで響き、相手には届かない。
 永遠に続くと思われたそれは、夜のカーテンを締める音によって打ち切られる。代わりとなるのは無機質な電子メール。端的な言葉が二人の元へと送られた。


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