契約結婚か   またの名を脅迫
娘さんを僕にください
「……お姉ちゃん、騙されているんじゃないの?」

 お茶を淹れに台所へ立った希実を追って、妹の愛実がやってきた。
 そして失礼千万なことを小声で宣ったのである。

「ちょっと……久し振りに会った姉に何てこと言うの。しかも妊婦のくせに胎教に気をつけなよ」
「だって、あんなとんでもないイケメンでしかも社長令息とか……普通、知り合う機会なくない? しかも奥手で純情なお姉ちゃんが」
「心配してくれているのか、馬鹿にされているのか微妙なところだけど、東雲さんに聞こえるから黙って」

 約束通り、土曜日の昼前に希実は彼と共に実家へやってきた。
 いわゆる『結婚の挨拶』をするためだ。
 娘の連れてくる男を品定めしてやろうと手ぐすね引いて待っていた母は、東雲を眼にした瞬間、出迎えた玄関で動きを止めた。
 それはもう、停止ボタンを押されたかのように。
 硬直する様は呆然とするハムスターに少しだけ似ていて、希実が複雑な心地になったのは内緒である。

< 114 / 288 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop