契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 けれど実際は、まさに『作り話』だ。
 この結婚が嘘なのは、紛れもない事実だった。そのことが希実の心に影を落とす。

 ――どうしよう……何か言わなくちゃ駄目なのに、声が出ない……

 喉が意思に反して動いてくれず、眼の奥が熱くなるのを感じた。
 泣くもんかと頭では思っている。それなのに視界は涙でたわんでゆく。
 長年染み付いた弱気な性は、そう簡単に払拭できるものではなかった。

 ――だけどこのまま言われ放題になっていたら、東雲さんに迷惑がかかるかもしれない。それだけは絶対に嫌……!

 ここで希実がべそべそと泣いてみっともない姿を見せれば、夫である彼が恥をかく可能性があった。
 それだけではなく、今後も似たような誹りは受けるかもしれない。
 その度に希実が俯くばかりでは、何も解決しないのでは。
 自分たちの婚姻が真実だと分かれば、彼女たちもこれ以上高圧的にはならないはずだ。
 涙を堪えながら頭を働かせ、希実は大きく息を吸った。

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