契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 自身の非を認めて素直に謝罪するのは、簡単なようでそうではない。まして地位のある者なら尚更だった。
 これと言って東雲に対して思うところがなかった希実は、意外な気分で瞠目する。
 自分とはかけ離れた人だと見做していた分、急に親近感すら覚えた。

 ――偉ぶったところのない、人格者なのね。社内の皆が憧れる理由がよく分かるな。しがない平社員の私にまで丁寧に接してくれるなんて。普通は、怒ったり高圧的になったりするものじゃない? いい人なんだわ……キラキラし過ぎて、私には眩しいけど……

 今だって淡い笑みを滲ませた尊顔が光り輝く勢いで、直視できない。
 希実はやんわり視線を逸らし、改めて彼と自分は住む世界が違うのだと実感した。

「あ……それでは今日のことは決して他言しませんので、私はお先に失礼します」

 床に散らばったファイルを拾い、希実は素早く扉を目指した。
 まだすべての資料は揃えられていないが、仕方あるまい。本来、花蓮の仕事だ。
 これ以上火の粉が降りかかっては堪らないので、可及的速やかに離脱しようと希実はドアノブに手をかけた。
 だが。

< 26 / 288 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop