契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 さらりと口説き文句が出てくる辺り、彼は本当に慣れているのだろう。
 女性へ甘い言葉をかけることに、抵抗感がないのだ。
 それとも上流階級では常識なのか。
 考えても答えが分かるわけもなく、希実は深呼吸で落ち着きを取り戻そうと頑張った。

 ――うぅ……顔の火照りが治まらない。でも、怯んでいる場合じゃないわ……

 レストランの個室なら、人目を気にせず落ち着いて話ができるはずだ。
 それなら、これから自分がしようとしている愚かで身勝手な選択も、やや気が楽になる。
 緊張で手汗はひどいし心臓が乱打しているものの、パニック状態にならず済んでいるのは、覚悟が固まったおかげだ。
 希実は下手な言い訳を捻じ伏せ、自分の心に素直になろうと決めた。

 ――こうなったら、とことん悪い女になってやる……!

 個室に通され、恭しく椅子を引かれる。
 こういった場での振る舞いに慣れておらず戸惑いつつも、希実は必死で冷静な振りをし続けた。
 が、そんな薄っぺらい仮面は、東雲にはお見通しだったらしい。

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