曇りのち晴れ、SWAN航空幸せ行き〜奥様はエリートパイロットともう一度愛しあう〜
序章 プッシュバック

第一話

 八月一日、九時四十五分。
 那覇空港を七時三十分に飛び立ったSW一九〇〇便が東京空港に到着した。

 この機体はスカイ・ワールド・エア・ニッポン社所属のボーイング七八七だ。
 通称『スワン(SWAN=白鳥)』と呼ばれている会社で、機体には初夏の柳の葉色を思わせる明るい黄緑色の中に、白鳥が描かれている。

 飛行機がランディングし、駐機場に向かってくると、雲晴希空(くもはれ のあ)達、グランドハンドリングチームの出番だ。

 グランドハンドリングとは、機内のパイロットと無線でやり取りをしながら無事に出発するまでを見送る、支援業務である。

 同僚達は定位置に飛行機が止まった途端、わっと囲んで一斉に作業開始出来るよう、それぞれの位置で待機している。

 希空が運転するトーイングカーが動き出すのは、出発仕様にフライトナンバーが変更してからだ。
 空港で働くクルマのなかでも、希空は飛行機をプッシュバックさせるトーイングカーの運転をメインに担っている。

 コクピットからパイロットの一人が出てきて、整備のチェックを始めた。

 機体の機首(ノーズ)にある、高度や気温、風など様々な情報を計測する機械。
 羽根、機体の様々な開閉孔。
 エンジンにギア、ブレーキ。
 損傷がないか、汚れがないか。一か所ずつ丁寧に確認していく。

 ……これがパイロットが機体を愛している証拠のように思えて、希空は嬉しい。
「法定点検なんだけど」

 ボーイングはPF(Pilot Flying)が。
 エアバスはPM(Pilot Monitoring)が外部点検をするのだと聞いたことがある。
 この機体はボーイングだから、出てきた人物はきっと機長だ。

 希空が思ったのは、ずいぶん背の高い人だな、という程度だった。
 しかし、彼女の視線を感じたのか。
 パイロットがちら、とこちらを向いたので、ひゃと首をすくめる。

 
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