どうやら私、蓮くんに愛されているようです
美奈子が会社を去りまもなく、会社が大きく路線変更を打ち出した。

《女子大生や若い女性を対象としたリーズナブルで可愛らしく、それでいてしっかりとした商品を提供すること》

その基本理念が覆されようとしている。

ターゲットを都会で働く女性に絞り、それに伴い商品も高級感を全面に打ち出すよう役員会議で決定した。
提案したのは紗夜子だ。しかも、紗夜子は課長職に昇進した。

美奈子が退き、後任には恵那の直属の上司だった課長が就任することとなった。そして課長の後任に抜擢されたのが紗夜子だ。そう、紗夜子は、恵那の直属の上司になったのだ。

やりきれない感情が恵那を襲う。
薫子が一から作り上げてきたものが壊されていく様を、黙って見ていることしかできない自分に腹が立った。

やっぱりこんなのおかしいよ……

決定事項を覆すことは難しい。けれど、諦めず、何度も何度も重役たちに直談判を試みた。
だが、恵那の力ではどうすることもできなかった。

「役員にくってかかるなんて、社員としてどうなのかしら」

恵那に向けられた紗夜子の余裕綽々の態度に怒りも湧いたが、これまで注いできたもの全てが "必要ない" そう言われているようで、心を保つことも限界だった。

少しでも衝撃を与えれば壊れてしまいそうな心を必死に保ちながら、自分なりになんとか毎日を過ごしてきた。
しかし、その間に会社の経営は急激に傾き始めていたのだ。

方向転換した結果は目も当てられないほどだった。
商品の愛用者は離れ、新規顧客獲得には苦戦していた。
そしてとうとう限界を迎え、大手総合商社【RYUSHOホールディングス】に買収されることとなったのだ。

薫子が守ってきた会社がなくなってしまう。
巨大な力に抗うこともできない自分はちっぽけで、なんの価値もないのだと、恵那は働く意義をも失おうとしていた。
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