どうやら私、蓮くんに愛されているようです
「……私、後輩の会話を聞いてしまったことがあるの」

以前トイレで聞いてしまった会話のことだ。
フロア内に当人であろう二人がいることは気づいていたが、敢えて続けることにする。
自分もつくづく嫌な性格だなと自嘲した。

そして、俯く紗夜子に対し、恵那は静かに口を開いた。

「彼女たち、言っていたわよ。私ではなくあなたの下で働きたいって。あなたのこと女神だって言ってた。デート用のリップをどれにしようか迷ってた時、自分には合わない色だからこれ使ってってあげたんでしょう?」

「そんなの打算に決まってるじゃない」

「本当に? 本当にそう? あなたがあげたリップって、以前あなたが働いていた会社のブランドでしょ? 私、彼女がそのリップをつけているところを見たんだけど、凄く彼女に合ってた。あなたもそう思ったからあげたんじゃないの? 違う?」

「バカバカしい。勝手に言ってなさいよ。アンタを引きずり下ろすためにやったのよ! じゃあ私は行くから。さようなら」

紗夜子は一度も振り返ることなく去っていった。

恵那は思う。紗夜子の化粧品に対する思いは恵那と同じように純粋なものなのではないのか、そうであってほしいと……

< 50 / 53 >

この作品をシェア

pagetop