プラトニックな事実婚から始めませんか?
告白
 集合ポストの中に郵便物を見つけ、足を止めた。帰宅したときにはなかったはずだが、見落としていたのだろうか。

 友人と会う約束があるから、あとで確認しようか。迷ったけれど、ここで私が暮らすのを知っているのは、家族と、これから会う友人たちだけだ、と思い直す。彼らが私に手紙を寄越す理由はない。

 差出人が気になって、ポストから封筒を取り出す。それは、成沢祥子(なるさわしょうこ)様とだけ宛名書きされた、消印のない白い封筒だった。

 手書きのかわいらしい丸文字には見覚えがある。無意識に封筒をぎゅっと握りしめ、苦しみに襲われた胸を押さえる。いまだ、傷ついた心は癒えていないのだろう。

 一年前、私は離婚した。元夫、桐谷将司(きりやまさし)の不倫が原因で。

 あれは、バレンタインデー前日のこと。将司の不倫相手から自宅マンションへプレゼントが届いた。

 将司宛のその荷物を手渡すと、ほんの少し彼は迷惑そうな顔をした。誰から? と尋ねたら、部下が気をつかって贈ってくれたんだろうと答えた。その荷物は翌日なくなっていたが、メッセージカードはスーツのポケットに残されていた。

 あのカードの文字は、一年以上経った今でも鮮明に思い出せる。

『ハッピー、バレンタイン♡お仕事、おつかれさまです。先日のお礼を兼ねてプレゼントを贈らせてもらいました。また楽しいひとときを過ごさせてください』

 あれは、私に対する不倫相手からの宣戦布告だった。将司はクリスマスに彼女を高級ホテルで抱き、バレンタインも彼女の部屋で過ごした。

 新婚だったのに、私たちがイベントを一緒に過ごした記憶はほとんどない。私はただ、仕事が忙しいと言う夫の言葉を信じるだけだった。
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