プラトニックな事実婚から始めませんか?
「ひどいっ。キスの写真もベッドの写真も、あんたが全部勝手に撮ったんじゃないっ。私は嫌だって言ったのに。怖くて逆らえない私を好き放題にしたのは、あんたなのにっ」

 綾は健一さんの持つ手紙を奪い取ると、ビリビリに破いて床へ落とし、靴で踏みにじる。

「なんで私ばっかり……」
「私ばっかり、不幸?」

 そう言ったのは、啓介だった。綾は泣き出しそうな顔をして、彼にすがりつく。

「啓介さんならわかってくれるでしょう? 私、啓介さんに言ったもの。ちゃんと彼女さんと別れてから付き合いたいって」
「不倫は人を不幸にするよな」

 綾の言葉を無視して、啓介は息をつく。

「啓介さんまでやめてよ、そんな話」
「そうやって逃げても、また繰り返す。自分が今、幸せじゃないって思うならそれは、自分の行いが自分に返ってきただけだよ。君がしなきゃいけないのは、恨むことじゃなくて、結婚しようとまで考えてくれた彼氏に誠心誠意の謝罪と、自分はもう二度と不倫なんてしないって誓うことじゃないかな」
「謝罪なら何度だってした。でも、だめだって。なんでもするから許してって言ったのに、許してくれなかった」
「相手が受け入れてくれるかどうかは別問題だよ。君は謝るしかできないんだ。相手に何かを求める権利なんて何もない。たくさんの人を傷つけ、それだけのことをしたんだって自覚しないといけないよ」
「そんな正論、聞きたくないっ」
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