プラトニックな事実婚から始めませんか?
「正論だって、伝わってよかったよ」

 取り乱す綾を見て、啓介は柔らかな笑みを浮かべるが、すぐに真顔になって、きっぱりと言う。

「話がわかる君になら、わかってもらえると思う。金輪際、俺の周囲に近づかないでほしい。俺が大切に思うすべての人の前に、二度と姿を見せないでくれ」
「なんで……、なんでいつも私ばっかり責められるのっ! 啓介さんを信じてたのにっ」

 綾はそう叫ぶと、周囲の視線におびえた様子でコモンを飛び出していく。

「また来るかな」

 啓介が苦笑いすると、誠也さんが彼の背中を叩く。

「大丈夫さ、ああいうタイプはすぐに別の男を見つけるよ」
「それならいいですけど」

 疲れた顔をした啓介は、床に散らばった紙くずを拾う健一さんを振り返る。

「綾に誤解させたままで大丈夫ですか?」
「啓介くんもそのつもりで、ここに綾を呼んだんだろう? 本当のことを話したところで、綾が納得するはずないし、無意味に美里を危険にさらす必要はないよ」
「正直、どうしようか迷っていたんです」
「啓介くんも優しいよね。誰も傷つけずに解決できるならよかったんだろうけど。もとはといえば、美里が復讐したのは俺のせいだからね、こんなことぐらいで俺の罪が償えたなんて思ってないよ」
「すみません」
「なんで、啓介くんが謝る? さあ、もうこれで終わりにしよう。今夜はみんなで楽しい話をしようか」

 そう言うと、健一さんはカウンターに立ち、すっきりとした笑顔を見せた。
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