プラトニックな事実婚から始めませんか?
「なんの情なんだろうな。優佳の妹で、乃梨佳の面倒を見てくれる親戚なのにさ。恋愛感情なんて持ったらいけないって思うのに、彼女の笑顔が浮かんでさ、あー、俺、好きなんだなって思うんだよ」
「芹奈は……、気づいてないですよね?」
「だろうね。いっそ、芹奈ちゃんが結婚してくれたらあきらめがつくとも思ってるんだけど、結婚願望はないってはっきり言ってたからね」

 そういうわけか。結婚したい相手がいるのかどうか聞いていたのは。

「芹奈が結婚しないのは、体調の心配があるからじゃないですか?」

 彼女はきっと結婚しないだろう。たとえ、相手が誠也さんでなくても。そんな気がしてそう言うと、彼も小さくため息をつく。

「啓介は全部、知ってたよな。彼女はいつも再発の不安を抱えてるから、やりたいこともやれずに乃梨佳の面倒見てくれててさ。もう、3人で親子みたいにこのまま過ごせたらいいって思ったり、彼女の人生を俺の犠牲にしたらいけないって悩んだりだよ」
「芹奈は乃梨佳ちゃんのお世話を好んでやってるんだから、犠牲になんかなってないですよ。言ってましたよ、芹奈。お姉さんの残してくれたのんちゃんの成長を見守り続ける毎日が、自分の人生であってほしいって」
「そうか……、そんなふうに。芹奈ちゃんが優佳を裏切るような真似、するわけないよな」

 そう言うと、誠也さんはビールを一気にのどへ流し込む。誰にも悟られたくない思いを飲み込んだように見えた。
< 51 / 124 >

この作品をシェア

pagetop