プラトニックな事実婚から始めませんか?
「利用なんてしてないよ……」
「わかってるよ。うまく言えないけど、俺が警察官だったから、一緒に暮らせば安心だって、ふたりで暮らす決意をしたのかなぁーとかさ。なんか、そんなふうに落ち込んだりもしてた」

 落ち込んでるなんて気づかなかった。ここのところの彼は忙しそうにしてたけど、弱音なんて吐かないし、そんな態度も見せてなかった。

 一緒に暮らしてるのに、彼の不安に私は全然気づいてなかったのだ。

「そんなことない。啓介が好きだから、寄り添ってきたつもりだよ」
「俺、自信がなくて、迷走しそうになってたかもしれない」
「自信がないなんて言わないで。私の方こそ、本気で好きになった人に裏切られたら怖いって、心のどこかで思ってたんだと思う。こんな形で一緒に暮らすことになってごめんね」

 啓介が落ち込んでるなら、私のせいだ。プラトニックの恋なんて望んだから。啓介は少しもそんな関係、望んでなかったのに。

「謝るなよ。祥子は何も悪くない。綾の言葉に惑わされて、祥子の気持ちを疑った俺が悪い。でも、それはおかしいだろって気づいて、調べてみる気になったんだ」
「綾が何を言ったの?」
「彼女って、嘘つきだよな? でもさ、全部が全部、嘘じゃない。ひとりで上京したこと、そこで男に傷つけられたこと、それは本当の話だった」

 啓介に身の上話をして、綾は同情を誘ったのだろうか。そうやって、将司にも近づいたのかもしれない。
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