プラトニックな事実婚から始めませんか?
 私をずっと愛してくれる人と過ごしていきたかった。ううん。今でも、そういう人と生きていきたいって思ってる。

「俺ならなれるよ」

 今までに聞いたことがないぐらいの優しさを含んだ声。いつも優しいのに、もっと優しくなれるんだって驚きもある。

 啓介となら、大丈夫。そう思えて、両腕を伸ばして彼の首に抱きつき、唇を合わせる。

 静かだった寝室にため息があふれていく。天井を見上げる私の目に映るのは、まぶたを伏せる彼。彼は甘い息を吐きながら、無我夢中になって激しく揺れている。

 ああ、こんなにも私を欲してくれていたんだって、強い思いが伝わってくる。

 つながれた手を離し、彼の背中へと腕を伸ばす。汗のにじむ肌を抱きしめると、涙があふれてくる。

「祥子……」
「ごめんね」
「泣くなよ」
「だって、こんなに幸せな気持ちになれるなんて思ってなかったから」

 もう二度と、誰ともこんなふうに抱き合えないと思うぐらい、私は傷ついていた。その傷を啓介が癒してくれるなんて思ってもみなかった。

「俺だって同じ気持ちだよ。祥子が愛おしくてたまらない」

 強く抱きしめてくれる彼を抱きしめ返す。汗の匂いも何もかもが愛おしい。

「私はもう、啓介にしか抱いてもらえないんだから、啓介もずっと私だけだよ」
「あたりまえだろ。祥子がほかの男に抱かれるなんて考えたくない。抱くのは俺だけだ」

 力強い彼の言葉は信じたくなる。あたりまえができない人だっている。でも彼は、絶対、裏切らないでいてくれる人だと思えてる。

「啓介しか思い出せないぐらい……抱いて」

 私の体に残るすべての記憶を啓介だけに塗り替えてほしい。

「そんなこと言われたら、寝させてやれなくなる」

 照れくさそうにする啓介のほおを愛おしくなでると、何度目かの優しいキスが落ちてきた。
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