プラトニックな事実婚から始めませんか?
償い
***


「啓介、出かけるの?」

 お風呂に入ろうとリビングを出たとき、仕事部屋から出てきた啓介がバッグを持っているのに気づいて、そう尋ねた。

「ああ、誠也さんと飲んでくるよ」
「またコモンに行くの?」
「誠也さんとはコモンって決めてるからさ。日付が変わる前には帰るよ」

 綾に会うと言ってモルドーへ出かけた日から、彼女には会ってないらしい。今日も誠也さんと飲みに行くだけだろう。

 だけれど、落ち着かない。それは、啓介を疑ってるとかじゃなくて、私のために綾を調べる彼に、どんなことでもいいから、私にも何か彼のために出来ることがないだろうかと思うからだ。

 玄関へ向かおうとする啓介の背中を見ていると、呼び止めなきゃいけない気がして、とっさに声をかける。

「待って。この前、言ってた話は本当? 綾が婚約破棄されたっていう、あの理由……」
「ああ、間違いないよ。それを今、誠也さんと調べてるんだけどさぁ。おいおい話すよ」
「うん。何かわかったら教えて。私も手伝えることがあればやるから」
「そうだな……。あー、そうだ。明日は芹奈とパン教室行くんだろ? 楽しんでこいよ」

 少し考え込む様子を見せた啓介だが、不安げな私に気づいたのか、にかっと笑うと、マンションを出ていった。
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