心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

1 崩壊した伯爵家


 由緒正しきヴィリアー伯爵家が静かに崩壊した。
 
 使用人の誰もが口を漏らさなかったためそれが外に知られることはなかったが、当主であるジュード卿とその妻のイザベラ、そして1人息子のグレイが笑顔で食卓を囲むことはもう二度とないだろう。

 ジュード卿は別邸に入り浸っていて本邸には顔を出さず、イザベラは幼い息子の世話も伯爵夫人としての仕事もすべて放棄し部屋に閉じこもっている。
 家族間の会話がなくなり、ヴィリアー伯爵家は常に静寂に包まれていた。


 順風満帆だった伯爵家が狂ってしまった原因……それは、ジュード卿が『2人の女』と出会ってしまったことだった。
 


 ある晩突然、ジュード卿が赤ん坊を抱いた若い女を連れて帰ってきた。

 知り合いなのか、はたまた自分の愛人なのか、ジュード卿は驚く妻に何も説明しないまま、敷地内にある別邸をその女に譲り渡した。
 大きな別邸は見知らぬ女のものになり、その日からジュード卿が本邸に顔を出すことはなくなった。
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