心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「マリア様?」


 マリアが何も答えないため、エミリーが不思議そうに顔を覗き込んでくる。
 正直に言っていいのか迷いつつ、マリアは遠慮がちに不安を打ち明けた。


「あの、マリア、こんなにお水飲めないかも……」


 半泣き状態のマリアを見て、エミリーは目を丸くした。
 余計なことを言ってしまったのかと思った時、エミリーはニコッと優しく微笑んだ。


「これは飲水ではありませんよ。さわってみてください。温かくて、気持ちいいですよ」

「…………本当だ。温かい」


 マリアは言われるまま、手を湯船の中に入れた。
 温かい水。だんだんと身体がほかほかしてくる。

 突然立ち上がったエミリーは、赤い花びらを持ってくるなりふわっと湯船に入れた。
 花びらが湯船に浮かび、ふんわりと花のいい香りが漂ってくる。


「……いい匂い」

「今から、マリア様はこの中に入るのですよ。全身入れると、もっともっと気持ちいいんです」
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