心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「……そうだな」
めずらしく素直に賛同してくれたグレイに、レオはにっこりと満面の笑顔を見せる。
いつの間にか床に落としていたクッションを拾い、またソファに腰かけたレオはふとある噂話を思い出した。
「そういえばさ、今街でも学園でも聖女の話で持ちきりなんだけど……マリアが第2王子のエドワード殿下と婚約するって本当なの?」
テーブルの上に用意されたクッキーを口に運びながら軽くその話題を出したレオは、グレイの鬼のような形相を見て全身が震え上がった。
先ほどまでのちょっと素直なグレイはどこへやら。
今は、誰か獲物を探すため地上に降り立った魔王のような顔をしている。
「……誰がそんな噂話を広めてやがる……?」
魔王の低く圧の凄い声に、レオは「ごっごめんなさ……」と条件反射で謝ってしまった。
まるでゴゴゴゴゴ……という地鳴りが聞こえてきそうな雰囲気である。
レオはソファの上で膝を抱えて丸くなり、ガタガタと震えている。