心を捨てた冷徹伯爵の無自覚な初恋 〜聖女マリアにだけ態度が違いすぎる件〜

64 麗しい兄妹のダンスと不機嫌な男


 まるで王子様のように差し出されたグレイの手。
 マリアは、ゆっくりと自分の小さい手を重ねる。
 
 その瞬間。待っていたとばかりに音楽が鳴り始めた。
 ダンスタイムの始まりだ。

 ゾロゾロと、ダンスを踊る人々がグレイとマリアの周りに集まってくる。


(聖女様のお近くで踊りたいわ!)


 声には出していないが、皆の顔にはそう書いてある。
 チラチラをマリア達に視線を投げかけながら、自分達の居場所を静かに取り合っていた。

 もちろん、まだ踊るつもりのない令嬢達もいる。

 彼女達は見目麗しいグレイと聖女のダンスを見るために、遠巻きから扇子で顔を隠しつつ2人を見守っている。


「周りの目は気にするな。ダンスにだけ集中すればいい」


 緊張した様子のマリアにそう声をかけると、マリアはグレイを見上げてニコッと笑った。


「うん」

「アイツらはみんなただの銅像だと思えばいい」

「ふふっ。わかった」

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